しるべ
たった10分車で登って来ただけにで、さっきまでいた天野駅がすごく小さい。
ニュータウンかなえの規則正しい住宅街に、
山沿いに流れる川、電車、線路、
向こうの海までマンションや住宅が
小さく粒を書いたように並んでいる。
その上を雲たちがゆっくりと東に流れて
それに合わせて家や山に影を作り出しいる。

日本地図で見たことがある地形が一望できる壮大な景色
自分もこの大きな自然の中の一部であること
壮大なものに守られている様なそんな安心感をも感じていた。

「すごい。こんな凄いところが近くにあるなんて」
佳乃子は景色の広大さ美しさに驚きを隠せなかった。

「いいでしょ?
ここオーストラリアの風景によく似ている。
そこが大好きだった。
嫌なことあるとその風景を見に両親が連れてきてくれた。
だからここに来ると、嫌なことも迷いも吹き飛ぶ。」

タイラーが心配してここに連れて来てくれたことに佳乃子は気づいた。

「タイラーさん。ありがとう。」

「佳乃子さんも嫌なことは吹き飛ばして」
二人はしばらく展望台の手すりに持たれて景色を眺めた。


ーーこんなに広大な景色を見たら吹っ飛んでいきそう。


「私は紹介用に写真いくつか撮って来ます。
佳乃子さんは景色楽しんでください。」
タイラーは笑顔でそう言って展望台を降りていった。


佳乃子はうーんと手を伸ばし背伸びをすると肩の力を緩めてベンチに座って目を瞑った。
時折吹く風の匂い、静かに草木の掠れる音を
身体全身で浴びている。

ーー浩介を手放したら何にも無くなって
私はひとりぼっちだと思っていた。
でもこんな風景の中のひとりぼっちなら
なんだかやっていけそう。

広大な景色の中のひとりぼっちなんて
とても小さなことにように思えた。

ーー私の好きなことから始めてみよう。


佳乃子は「よっし」と立ち上がると
また手すりに持たれて長い時間、
景色を目に焼き付け
自分自身の新たな人生を鼓舞した

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