しるべ
紫紺

私はずっとずっと

浩介くんが欲しかった。

前妻よりもずっとね。

私の人生でこんなにも欲しいと思った人はいなかった。



幼少期であっても私は両親からの愛情さえも欲しいと思ったことはなかった。
その反対に両親は鼻っから私を欲しいとも思っていなかった。

母はベビーシッターに週7で私の世話をさせた。
母が帰ってくるといつも何をしたか話したが、
母は私に興味を持たなかった。
そのうち私も賢くなって諦めて母に話しかけなくなってった。

両親は世間体を考えて離婚をしないが
互いにパートナーを持ち相手を干渉しない。
そんな二人を見て育った私は
友達も恋人にも執着する事はなかった。
特に恋人は見た目で選んだ。
だからとんでもない男もいた。


浩介くんに初めて出会ったのは入社式の日。
受付の浩介くんを今も覚えている。
彼はこう言って笑ってくれた。
「松永夏海さんですね。入社おめでとうございます。」


その夏にフロア部署合同のBBQが開催されて、
浩介くんは家族を連れて来ていた。
息子とサッカーで戯れたり、奥さんの手伝いをしたり娘と食事を楽しんでいた。


その時の彼の笑顔が心の中に溶け込んで
忘れられなかった。

私は初めて欲しいと思った。

浩介くんが欲しいと思ったの。
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