しるべ
それから仙台の支所に転勤した。

その頃の私には不倫をする度胸もなかったから
ただの憧れだと思って気持ちに蓋をした。

初めて会ってから9年。
浩介くんのこともすっかり忘れていた。
だけどそこに課長として浩介くんが転勤して来た。

転勤初日に見たあの笑顔で
またあの気持ちが戻ってきた
当時付き合っていた男がいたけど
もう浩介くんしか見えなかった

歳は取って目尻の笑い皺が年齢を感じさせたけど
それ以上に頼り甲斐もあって優しいし変わらず魅力的

何度も食事に誘ったり、休みの日に浩介くんが行くジムで偶然を装って待ちぶせしたり
仕事場の飲み会で酔い潰れたふりをした。
始めて欲しくなった物に私は我を忘れ夢中になった。
なりふり構ってなんかいられなかった。

ただ、一年経つ頃には仕事場で私の行動が問題視され
浩介くんと別部署になってしまった。

それからは、私も慎重に「確実」を狙うことにした。
未来の私の為にも浩介くんの経歴を汚すわけにいかないから。

そんな慎重な姿に浩介くんも
私に警戒を取り払ってくれるようになった。

その当時暇つぶしに付き合ってた男は
本当に見た目だけの酷い男だった。
あいつは私に執着していたから、
浩介くんを想う私に気づいて無理矢理私を抱いた。

それから来る物が来なくなったことに気づいた。
それで私にツキが向いた。

私は相談に乗って欲しいと浩介くんを誘い出した。
私一人じゃ来てくれないから、後輩の男の子を連れてきた。
浩介くんを酔いつぶして、後輩をさっさと帰らせて
あとは関係を持った。

それからは簡単だった。
生理が来ないことを浩介くんに伝えたら
責任を取ると言ってくれた。
土下座してたから可哀想で抱きしめてあげた。
それでも彼は泣きながら謝ってくれた。
やっと私の物になるんだって嬉しさが
上回っていたから気にしないでいたわ。

ただその時の男と別れるのに時間もお金もかかった。
私が手に入れた物に比べたら、なんてことはなかったけど。
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