しるべ

洗柿

佳乃子が離婚してから3回目の9月
大咲山の一帯は分厚い雲が連なっている

雲の底が青黒くどんよりとして
今にも雨が降りそうだ

喫茶「木の家」の女将は
日も傾き始めた空を見上げながら
「今日は夕方降るみたいよ」
と、佳乃子のテーブルにコーヒーを置いた。

「ありがとう」
佳乃子は窓際のテーブル席でノートパソコンを出して仕事をしている。
タイラーに英語力を認められて観光紹介サイトの記事を書く仕事を始めた。日本人の侘び寂びを感じる記事が徐々に評判を呼び、他のサイトからも記事の依頼が来るようになった。
午前中は木の家でパートもさせてもらい、
3年たって自分の稼ぎで少し余裕のある生活できるようになった。

今日は木の家で働いた後、午後は木の家の窓際でタイラーのサイト記事を書いている。
ここで作っていると千鶴やタイラーが遊びに来て仕事にならないことが多いが佳乃子はそれも楽しみのひとつになっている。
だから納期に余裕のあるサイト記事だけと決めて木の家で仕事をしている。

今日は千鶴がもうすぐ来る予定になっている。
佳乃子はサイト記事を作りながら千鶴が来るのを楽しみにしていた。

離婚してから3年。
自分の好きなこと出来ることを積み重ねながら
自立した生活を過ごせるようになった。