しるべ
杜若色
浩介くんを返して貰おう
今の浩介くんじゃなくて
私が欲しい恋焦がれたあの浩介くん

あの女が持ってるんでしょ


改札を出ると、あの女が住む住宅街が見えた。
私はすぐにあの女の家を探し始めた。
ずんずんとロータリーを分断しながら歩いて行った。
駅前にいる人たちから異様な目で見られた。
時間がないから仕方ないでしょ。

家の住所がわからない
こんなことなら、浩介くんが家に帰って
前妻に話しをしに行く時に
家を見に行けばよかった。

あの女の家も金も全部全部
私の物になるはずだったのに
浩介くんも全部返して貰おう



残暑の湿った暖かい風が吹き始めた。
夕方でも暑くてアスファルトからの熱も酷い。
天気予報で夕方に雨が降ると言っていた。
早く雨が降ればいい
こんな散々な気持ちが少しでも晴れる
風に背中を押されながら私は住宅街を彷徨った。

しばらくして天気予報が当たった
大粒の雨が服を濡らし始めても
あの女の家を探した。

住人が訝しげに私を見るけど
構ってられない。

日が落ちた頃
やっとあの女の名前の表札を見つけた。

窓から暖かな灯りが漏れていた。



返して

浩介くんを返せ
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