しるべ
翌日
浩介は柊斗と夏海を車に乗せて帰って行った。
嵐が過ぎ去った朝は面白いぐらい綺麗な青空だ。


昨日の昼間に浩介から「夏海が佳乃子のところに行っているかもしれない」と電話があった。

その時は最悪な状態も想像したが
夏海の荷物には凶器のような物は持ってなかった。

幸いな事に浩介が夏海のGPSを把握していたおかげで
夏海が佳乃子に接触する前に捕まえることができた。
  
当の佳乃子との連絡がなかなか捕まらずそのせいでヤキモキしたが
パート先の喫茶店で匿って貰ったそうだ。


しかし昨日、あんなに威勢に良かった夏海が黙って車に乗った時は
この夫婦の終焉に立ち会っているようだった。
夏海の横ですやすやとチャイルドシートで寝る柊斗がこの夫婦のアンバランス差を物語っていた。

昨晩は浩介達3人を無理に山城の家に泊まらせた。
3人は静かで特に柊斗は浩介としか話をしなかった。柊斗と夏海は家族として到底成立していない歪な関係だった。
浩介は柊斗を寝かせた後、山城と話た。
「夏海と夫婦として向き合わないでいた皺寄せが来てしまった。これからは向き合うことで佳乃子達に危害を加えないようにします。」と謝った。

「わかった。一言だけ言わせて欲しい。
もういいんじゃないか?どうせワンオペの子育てなんだろ?なのににこんな事が起こったら坂倉さんだけで抱えきれない」
山城は浩介が背負っているコトの重さに危機感を覚えた。
浩介は「こうするしかないんです。」と言って曖昧に笑った。



山城は3人が乗った車を見送りながら、その浩介の笑顔が忘れられなかった。
ーー柊斗くんの為だけであんなに頑張れるものだろうか。
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