しるべ
東雲色

10月の空港は少し肌寒かった。
佳乃子と楓は梓の見送りで空港に来ている。
今日は梓がオーストラリアに向けて出国する日。
空高く鱗雲がどこまでも繋がっている。
梓はコロコロと大きいスーツケースを転がしながら佳乃子に話す。

「お母さん、この前みたいな事があったら、すぐお兄ちゃん所に行ってよ。頼りないけど体はでかいから壁にはなるんだから。」

梓は先日の夏海の襲撃未遂について言っている。
山城の電話の後、佳乃子は夏海達が自宅に戻る連絡がくるまで梓の家に避難していた。
最初に山城から連絡があった時は、危機感を感じなかったが
千鶴と山城の説得に応じて梓の家に行くことにした。
気がかりだったのはすずのことだけど、山城が世話をしてくれた。
翌日山城から夏海が家の前まで傘も刺さずに
来ていたと聞いて言い表せない恐怖が襲った。
周りの言うことを聞いて避難して
よかったと心底思った。

あちらの夫婦間のせいで
こちらに迷惑を被ることに恐怖と怒りが湧く。
山城を通じて浩介に夏海を接近させない様に
お願いした。

そんな風に拗れているせいか、
梓と浩介は別日に会い、
今日の梓の出国の見送りには浩介は遠慮したようだ。
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