しるべ
蝋色
家に戻ると車を降りたところで隣人の都さんに声をかけられた。
坂倉家の2倍はあるだろう敷地に四季折々の植物を育てる緑豊かなお宅だ。
都さんも子育てが終わりヨガや習い事に第二の人生を謳歌している。

「坂倉さん、おはよう」
「都さん、おはよう」
「あら、旦那さんおかえりだったのね。邪魔しちゃって」

浩介は都に一瞥し、佳乃子の買い物袋を持って家に入って行った。
ーー相変わらず、優しいのか自分勝手なのかわからないわね。

「じゃぁ、また今度ね」
都さんに手を振り、佳乃子も浩介の後を追いかけた。

浩介は手も洗わず冷蔵庫に直行しどんどん買ってきた商品を詰めていっていた。単身赴任前と変わらない光景に佳乃子は
ーーまたこの光景が始まるのね

10年前の佳乃子は『そんなにせかせかしなくても、手を洗ってからでもいいのに』とため息が出たものだが、今は感謝の気持ちに浸っている。

ーー時間の流れとはいろんなものを変えるのね。
「ありがと。」そう言って佳乃子は買い物袋から出した商品を浩介に渡した。
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