しるべ
どっちがチャーミングな仕草ができるのか
披露し合い笑い合った後の息切れに
年甲斐もなくはしゃいだ事を後悔した。
「変なことしちゃったね」
と、顔を合わせてまた笑い
息切れなのか笑っているのかもわからない。

「一旦、落ち着こう」
スコットは佳乃子を椅子に座らせ、お茶を淹れた。
「年甲斐もなくはしゃいじゃった」
スコットが茶菓子を出してくれる。


お茶を飲んで落ち着いた佳乃子は
スマホを指で触れた。
待受画面には愛猫のすずがお腹を見せて
ごろんとリラックスした姿が映っている。

「スコット、ありがとう」
佳乃子はスマホの愛らしいすずを
見ながら礼を言った。
スコットには幾度となく救われてきた。
離婚した日、大咲山お展望台に
連れていってもらった。
それからも佳乃子を気にかけて、
落ち込むような日には千鶴と共に
佳乃子の側で寄り添ってくれた。

「千鶴ちゃんもね」

そう話すとスコットが
スマホを持つ佳乃子の手を握った。
「なんでも無いことだよ。
僕も佳乃子に救われているからね」

「ありがとう」
スコットの優しさが佳乃子の手に
温もりと共に伝わった。

スマホから着信音が流れた。
佳乃子はスコットの手を離すと画面を見た。

「チズかな?」
スコットは千鶴をチズと呼んでいる。
佳乃子の返事がないので
どうしたのかとスコットは佳乃子の顔を見た。


それはさっきまでの穏やかな顔ではない。
それは10年前に天野駅で見た
佳乃子の顔と同じだった。

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