しるべ
琉璃紺
暗い闇を走る新幹線

新幹線の客席内からは景色は見えず
夜景とは言えない家明かりが
ポツポツと見えるだけ。
窓に映った男の顔の方がよく見える。

皺が深く疲れた男の顔が
じぃっと真っ暗な窓を眺めている。
窓に映るシワはいつもより
深く刻んで見える。
心労のせいか写りのせいか。
目を瞑るが、どうしても落ち着かない。


ーー何故、あそこに行くんだ。



金曜日の夕方、浩介が家に戻ると
先に家に帰っているはずの柊斗がいなかった。

玄関に入って
すぐに異変に気づいた。
どの部屋も明かりもなく真っ暗。

部屋の中で柊斗を呼ぶ度に
心臓の鼓動が早くなった。
部屋は浩介の声しか響かない。
ランドセルと体操服に給食袋が
柊斗の机の上に置いてあった。
学校からは帰宅していることは確認できたが、
時計はもう18時を示している。


ーーまさにあの日と同じ胸騒ぎだ。


浩介は否応無しに不安が襲った。
柊斗にキッズスマホを持たせていることを思い出し
自分のスマホを取り出し電話をかけた。

コール音しか聞こえてこない。
「何でだ」
再度電話しても出ない。
「でなさい!」
浩介も不安と焦りで語気が強くなる。


ーーああ、そうだ!位置確認だ!


浩介は慌てて柊斗の位置情報を確認する。
小学生に上がる頃にキッズスマホを渡してあった。
シングルで子供を育てているとどうしても
1人にさせる時間が多くなる。

スマホを渡しておいてよかったと
ぐるぐると矢印が回る位置確認検索中の画面を見ながら浩介は思った。

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