しるべ
暗緑色
楓はスマホを片手に暗い夜道を走った。
天野駅に向かって。

楓は中学校の同級生と結婚し
長女長男をもうけた。
佳乃子は孫の2人を祖母バカと
言って良いほど
可愛がってくれている。
祖父に当たる浩介には結婚も孫のことも
電話で近況を伝えるように話しただけだ。
結婚後は実家近くのアパートに
家族で住んでいる。

自宅で食事をとっていると
温泉旅行に行った母から電話があった。
父の子ども、戸籍上は楓の弟になる子どもが
1人で天野駅に向かっていると聞いた。
母が一番天野駅に近い楓に
保護をお願いしてきた。

その子が父にも伝えず、
父の連絡も一切取らずに
ここまで来ると言うことは
よっぽどのことだと楓は思った。
その子がどこまで父の過去を
知っているかはわからないが
天野駅に来ると言うことは、
母か自分に会いに来たのではないかと
楓は思っていた。

ーー何をしに来るんだ?

以前の夏海襲撃事件もあったから、
攻撃要素のことも頭に入れて
楓は1人で天野駅へと向かっていた。

天野駅に着く頃には若干息が上がった楓は
肌寒い風を胸で切りながら駅の周りを見渡した。
喫茶店「木の家」はもう閉店している。
バスが行ったばかりなのか
ロータリーに残っている人は数えるほど。
その中に小学生のような子どもは居ない。

ロータリーの時計は18時40分を指している。
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