少し愛重めな橘くんは溺愛症候群

運命

放課後・蓮視点・校門前


「蓮くん!!これ部活で作ったクッキーなんだけど、良ければ食べてくれないかな?」


「蓮くん、私のも食べて!!」


蓮「いらねぇ。甘いもんは無理」


部活終わりの放課後は地獄だ。


本当は家に帰宅してもいいけど、俺はピアノを弾くのが好きだからいつも音楽室に一人でこもっている。


家にはピアノが無いし、練習できるのは学校だけで最終下校時刻まで弾く。


だけど部活終わりの女たちは、俺の帰宅する様子を見て近寄ってくる。


そして今もいつもと同じ状況で、すごくイライラした。


「蓮く……」


蓮「名前で呼ぶな。着いてくんのもやめろ」


冷たく突き放しても、女たちはちょっと嬉しそう顔をするだけで、全く話を聞かない。


(俺の事なんて顔だけしか見てないくせに。)


ほんと頭にくる。


俺は他の男に比べて整った顔立ちをしていると、嫌でも理解してしまう。だからと言ってメリットはほとんど無い。


こうやって女は寄ってくるし、誰かにこれでひいきされるのも好きじゃない。


無理やり押し切って女がいない路地に着いた時、ズボンのポケットに入っているはずの生徒手帳がないことに気がついた。


(無くしたとかだったら危ねぇし、もし女が拾ってたら……)


急いで戻ろうと踵を返した時、後ろから声をかけられた。


?「これ、落としましたよ」


優しい声色の女の声。


女が拾ったなんて、と振り返ると見たことがない女が俺を見ていた。


女になんて興味が無い。


そう思ってる俺の体に衝撃が走り、心臓が跳ね上がる。長いまつ毛に大きな瞳、小顔で長い髪の毛。


今までの女とは違うとすぐに俺の頭が認識した。


日和「あの……」


蓮「あ、ああ。ありがとう」


初めての感覚で動揺が抑えきれない状態で、差し出された生徒手帳を受け取る。


その際に、細くて白い指先が軽く触れて思わず離れてしまう。


嫌味なやつだと思われたかもしれない……って初めて会ったやつに何考えてんだ。


しかも女だぞ。


なのになんでこんなに胸が締め付けられるんだよ。


日和「じゃあ、私はこれで」


小さくお辞儀をして去っていった彼女が、まるで天使のようだと思う。


彼女が去っていってからも、俺の心臓は鳴り止まない。


早く動き続ける心臓に、俺は不思議に頭を傾げるだけだった。


その日の六時頃・スーパー


(はぁ、だるい。なんで俺が母さんからおつかいを頼まれているんだ。)


しかも今日は母の友達が家にやってくるらしく、いつもより多く料理を作ると言っていた。


もう今は六時だ。


今から作って間に合うはずがないと、俺は考えながらも渡されたメモを見ながら、食品を手に取っていく。


(餃子にポテトサラダって合わねぇだろ……。)


気のせいだと思いたいが、周りからの視線を感じる。


「ねぇ、あの人かっこよくない?」


「まぁ、ハンサムな高校生だねぇ」


若い女と、隣にはその女の母親らしき人。


俺の事を何も知らない人が、俺の顔だけを見て騒ぐのが1番しゃくにさわる。


所詮、女は顔だけで、ただ善意だけで俺に何かをする人なんていないと思う。


日和「あっ……?」


近くから聞いたことがあるような女の声がする。


この透き通るような声……もしかして。


蓮「お前……」


少し前に出会った、俺の頭から離れない彼女が、驚いたように目を見開いて俺を見ていた。


(また会えるなんて……嬉しい。)


もう一度、同じ日に会えるなんて思ってもいなくて、これは運命何じゃないかって思ってしまう。


というか頭から離れない理由ってもしかして……。


(俺が、こいつに……一目惚れしたから……?)


俺のことを不思議そうに見つめて、右にこてん、と頭を傾げる彼女が可愛すぎた。


心臓の鼓動がどんどん早くなっていく中、ようやく彼女が口を開いた。


日和「ああっ!!やっぱりそうでしたよね」


蓮「うん。迷惑かけてごめん」


日和「いえ!全然大丈夫です……!!」


(控えめなところも、身振りが大きくてジェスチャーが多いのも可愛い)


そういえば彼女って何年生だ?


小さいから後輩だと思うけど。


蓮「あのさ、何年生?」


唐突な質問に混乱する彼女が自分の名を口にした。


日和「高校三年の花江日和です!!」


(高校三年って……先輩じゃねぇか。敬語で話さないと行けないのに、早く聞いときゃよかったな……これ。)


ちょっとの後悔をしながら俺も自分の名を名乗った。


蓮「橘蓮。高二です。日和先輩って呼ばせてもらいますね」


日和「えー!全然いいのに……!!」


蓮「俺が呼びたいのでお願いします」


別にタメでいいならタメで話そうとは思うけど、何となく彼女……日和先輩はちゃんと先輩として見た方がいいって思った。


……日和先輩の名前、めちゃめちゃ可愛い。


日和先輩は、いわゆる普通だけど、表よりどちらかと言うと裏でモテてしまうタイプ。


裏で誰かが好きになって、日和先輩を奪ったら。


絶対、俺はそいつの事を……いや、そんな事をしたら日和先輩が悲しむし。


日和「蓮……さん?」


蓮「蓮でいい」


日和「じゃあ蓮くん……でいいかな?」


身長差で必然的に上目遣いになるのが、俺の心臓を締め付けていく。


他の男がー、とか既に嫉妬していた所でも、日和先輩が話しかけてくれたらすぐに収まる。


でもその分、俺だけの物にして、他の誰にも可愛い日和先輩を見せたくない。


心に黒いモヤがかかっていくような感覚がする。


日和「もう十分くらい経っちゃってる!?じゃあ私、ちょっと急いでるのでまた今度会おうね!!」


買い物かごを右腕に掛けているのが主婦っぽくて、いつか日和先輩は誰かの妻になってたりするのかって、嫌な想像を膨らませていく。


(これ以上、嫌な想像はしたくない。)


蓮「日和先輩、また今度です」


日和「うん!!じゃあね」


日和先輩の笑顔は綺麗で、可愛くて無邪気で、身振りも大きいから小さい子供みたいで可愛い。

日和先輩がすぐに去っていってしまうから、さっきも思った通り、日和先輩は天使じゃないか……って考える。


(いや、何考えてんだ、俺)


自分の頭をガシガシとかきながら、お肉のコーナーへ言ったり、無くなったらしい調味料を手に取って会計に向かった。


その際、先にスーパーを出た日和先輩が歩く後ろ姿が見えて、自然と口角が上がってしまった。


(明日からの学校が少し楽しみになったかもしれない)


だって……偶然が重なって日和先輩と会えるかもしれないから。


(やべ、楽しみすぎて寝れなさそう)


食材を袋に詰めて、俺はスーパーの出口からスーパーを出た。


その時、俺は後ろから苦い視線を感じた。


だけど誰もいないし、知り合いなんて居ないはず。


(気のせいか……)


この視線は気のせいだと思う。


けど、誰かが憎悪の視線を俺に向けているかもしれない。


もしかして日和先輩のファン……とか?


もしそんなのだったら許さねぇけどな。


その後も、家に着くまでずっと視線を感じていた。


(何なんだよ、気色悪い)


後ろからの視線の正体は結局分からず、そのままドアをガチャ、と開けて家に入った。


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