少し愛重めな橘くんは溺愛症候群

秘密の時間

朝七時・改札前


蓮「日和先輩、おはようございます」


日和「おおお、おはよう!!」


憧れの日和先輩に朝から会えて嬉しい。


日和先輩がこれだけ挙動不審になっている理由は。


(前日の回想)屋上・小屋の中


日和「え、ええっと……蓮くんと私がお付き合いするの!?」


蓮「はい。俺も恋愛した事ないんで」


日和「で、でも……やることなんて分かんないよ!!」


蓮「俺だって分からないので一緒に探しましょうよ。俺に恋してください」


日和先輩が可愛くてつい近くに寄ってしまい、日和先輩が真っ赤になる。


こんな顔、誰にも見せたくない。


可愛すぎるんだよ日和先輩は。


日和「恋……出来たらいいな」


日和先輩が恋をしようとしている相手が、今俺になっているのが嬉しくて。


蓮「日和先輩、それより約束して欲しいことあります」


日和「なあに?」


蓮「今日から日和先輩は俺だけのものなんで。他の男とは離さないでくださいね」


日和「え、ええっ……?」


(俺の仮彼女の日和先輩が、俺以外の男と話すなんて絶対無理、耐えられない。)


仮でも日和先輩は明日から彼女なんだから。


俺だって恋なんてした事ないし、俺の愛がどうなのか全く分からない。


(だから俺はお互いが安心できるくらい、お互いで束縛し合う方が……って日和先輩は嫌か。)


そう思ったのに、日和先輩は笑いながら了承してくれた。


日和「分かったよ。でも私、本当に恋とか分からないし、普通だから秘密にしよう?」


日和先輩の持ちかけてきた約束は、他のやつらに付き合っていることを言わないということ。


そんなの元からそうしようとしていた。


俺が日和先輩を好きってことは他の奴らは知ってるだろうけど、日和先輩と付き合ってるということは知られたくない。


自分では言いたくないけど、俺と少しでも話した女がほかの女の恨みを買って物を隠されたり、虐められたりしていたのを見てしまった。


その時はやめろって言わないといけない状況下だったから、ちゃんと話しかけた。


でもそれがもし日和先輩になってしまったら、俺は一生後悔してしまう。


そしてその女や男を殴るどころか再起不能にさせてしまうと思っている。


だから絶対に言わない。


これは全部日和先輩を守るためだから。


日和「じゃ、じゃあ明日から駅の改札で待ち合わせしない?」


蓮「一緒に学校行くってことですか?」


日和「うん!!帰る時も良ければ……ほ、ほら!!付き合うんだったら必然的なことじゃない!?」


確かに、生徒手帳を拾ってもらった時も、日和先輩は同じ道で、去っていった時も全く同じ方向だった。


どうやら地元が近いらしく、中学は私立の女子校。


高校は青春をするために共学高校に出てきたらしい。


日和先輩がここの学校に来てくれて本当に良かった。


蓮「じゃあ明日から彼女としてよろしくお願いします」


日和「彼女っ!!私も彼氏としてよろしくお願いします……!!」


日和先輩に彼女と言われたのが嬉しすぎて、ふっと吹き出して、2人で笑いあった。


(回想終了)


あの後、日和先輩の持っていた弁当の中に入っていた卵焼きを貰った。


少し甘めで塩味もあり、日和先輩のお母さんは料理上手なんだな、と思っていたら日和先輩が作ったもので感動した。


日和先輩の手料理をこんな直ぐに食べられるとか、俺幸せすぎる。


蓮「日和先輩、手」


俺は日和先輩の愛おしさと、周囲の男どもの視線を遮りたいがために手を差し出した。


日和先輩は俺のものだって、そう自覚して欲しい。


俺の差し出した手を見て日和先輩は赤くなる。


日和「蓮くんの手熱い」


蓮「……!!ごめんなさい」


日和先輩が可愛すぎて手が、顔が、体がどんどん熱くなっていく。


それが日和先輩にバレたのをきっかけに、俺の顔は赤くなった。


それを見て日和先輩はくすっ、と笑う。


日和「蓮くん顔真っ赤!!ふふっ、照れてるの?」


蓮「照れてないです」


日和「嘘だ!!」


蓮「本当です」


そんなやり取りだけでも俺の気持ちはふわふわと浮かせられた。


こんなやり取りをしているうちに、いつも乗っている電車が来て2人で乗り込もうとした。


……だけど。


日和「ひ、人多いっ……!」


蓮「来てください」


日和先輩の手を強く握って電車に入る。


男に触れないように端っこに日和先輩を連れていき、俺は壁に手を着いた。


いわゆる壁ドンという形で心臓が速くなった。


そんな状況じゃないけど、日和先輩が心配そうに俺を見上げているのが痛い。


日和「ありがとう、蓮くん」


蓮「い、いや。大丈夫……です」


動揺が押えきれずに日和先輩から目を逸らす。


電車が動き出して少し経った時、電車が大きく揺れた。


ガタンっと大きな音を立てて揺れた電車によって、日和先輩が俺の方に倒れこんできた。


日和「わっ!!蓮くんごめん!」


蓮「大丈夫です」


ナチュラルに日和先輩と触れられて心臓は破裂寸前。


真っ赤な顔を右手で隠して、指の隙間から日和先輩を見る。


日和先輩もあわあわと動揺して、頬を染めていて同じだと笑いそうになった。


日和「何笑ってるの?」


蓮「いえ、なんでもないですよ」





校門前・朝7時45分


門の近くまで着たら、この繋いだ小さな手を離さないといけない。


離したくないけど日和先輩を守るため、約束を破らないためにすぐに離す。


これで付き合っているのがバレてしまったら、日和先輩とのお付き合いが破談し、日和先輩がどうなるか分からない。


日和「じゃあね蓮くん!!」


日和先輩の教室まで送ったら、俺たちは一旦終わり。


名残惜しさを残して帰ろうとしたら、日和先輩が俺の服の裾を小さく引っ張った。


日和「蓮くんは私と恋をするの嫌じゃない……?」


蓮「は……?そんなの当たり前じゃないですか。もう俺、日和先輩のことす……」


日和「す?」


告白しかけてしまい、俺は直ぐに口を閉ざした。


危ない、付き合ったばっかりで日和先輩は絶対好きじゃないのに、告白しそうになった。


蓮「なんでもないです。じゃあまた放課後に」


日和「うん……!!またね!!」


日和先輩が俺に笑ってきたからもういっかって振り切れた。


だけどその笑顔が不安に追い込んでいく。


俺ではなくて他の男に目がいったら?


話さないと言ったけど、日和先輩は可愛すぎるから男に話しかけられるかもしれない。


俺以上に優しくて惹かれるような男に出会ったら?


俺は……。


拳を強く握って唇を噛んだ。


俺はこれ以上日和先輩に近づけないかもしれない。


ただの後輩だから。


独占欲で潰されそうな自分の気持ちを抑えて、顔を歪めた。


誰かに奪われないために、日和先輩を俺の手の中に留めておかないと……。
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