少し愛重めな橘くんは溺愛症候群

敦さんと日和先輩の過去

12時・フードコート


日和「美味しい……!!」


水族館のフードコート。


お昼時だからと言って、フードコートで昼食をとることにした。


日和先輩はオムライス。


俺はカルボナーラ。


別になんでもよかったけど適当に安めなカルボナーラを食べた。


結構水族館も回ったし、その後はどうするか。


水族館に来ること以外は全く考えていなかったから、何をするか今困っている。


日和「蓮くん、食べ終わったら買い物に付き合って欲しいんだけどダメかな?」


俺が困っている中、日和先輩が買い物をしたいと言ったので近くのショッピングセンターに入った。


何を買うのかと思ったら、俺にそこで待っててといいそのまま走ってどこかへ行ってしまった。


もし日和先輩が男に捕まったら……と考えない方がいいことが頭をよぎる。


さっきまで俺とずっと手を繋いでいたし、男の視線があれば睨んでどこかへ追いやっていた。


けど今は日和先輩1人だし、可愛すぎる日和先輩はもしかしたら男にナンパされるかもしれない。


それは絶対に無理、耐えられない。


日和先輩にここで待っててと言われたから動かないけど、心配すぎて今にも動き出しそう。


そう思ってソワソワしてる時、後ろから肩を叩かれた。


蓮「うわっ」


振り向くと何故か敦さんがいた。


敦さんは日和先輩の兄でシスコン。


結婚したいとか普通に本気で言っていて、重度のシスコンだ。


俺と日和先輩がスーパーで一緒にいた所を何故か見ていて、俺が出ていくところまで見ていた。


多分日和先輩が心配過ぎてストーカー的なことをしていたんだろう、と出会ってまもない中呆れている。


日和先輩も兄には普通に怒っていて、仲がいいんだと嫉妬。


敦「お前……日和に見捨てられたのか!?お疲れだな!!」


蓮「は?何でですか?まだ付き合ってますけど」


いきなり出てきて何を言うかと思ったら、俺たちが別れたと思って喜んでただけかよ。


イラッとしてすぐに体ごと背を向けた。


蓮「てかなんで居るんですか?帰ってください」


敦「やっぱ俺はお前みたいなクールすぎて冷たいヤツ許さねぇぞ!!」


蓮「許されなくてもお試し恋愛は続けますからあっちいってくださいよ」


とりあえず鬱陶しいからどこかへ行って欲しい。


それを願って言った一言だった。


その一言を聞いた敦さんは驚いた表情をした後、真面目な顔になった。


いきなり何かと思うと、近くの椅子に座らされ、向き合う形になってしまう。


蓮「なんですか」


敦「お前……お試し恋愛ってなんだ?」


蓮「恋を知りたいって言っている日和先輩とお試しで付き合ってます」


お試し恋愛なんて聞いたらわかると思ったのに、わざわざ確認されて意味がわからない。


敦さんはため息をつき、俺と目を合わせた。


敦「お試し恋愛と言って"また"日和を傷つけるのはやめてくれ。だから別れて欲しい」


蓮「……またってなんですか」


敦さんの言った。


『また日和を傷つけるのはやめてくれ』


という言葉が俺の心にズシッとのしかかった。


もしかして日和先輩が暗い表情をしている原因と関係があるのかもしれない。


蓮「敦さん、日和先輩は過去に何があったんですか」


敦「それは本人に聞け。日和は多分……いや何でもない。とりあえずこれで俺は帰るから、聞きたいことは日和に聞けよ」


口調が荒く、やけくそになったように吐き捨てて去っていった敦さんはまるで嵐。


俺は元から日和先輩を傷つけるつもりは無い。


だけど俺と付き合うことで、日和先輩が傷つくことがあるのならば俺は---。


日和「待たせてごめんね!おまたせ〜!」


敦さんの姿が見えなくなった直後、日和先輩は袋を手に掲げて帰ってきた。


結構走ったのか、もう冬なのに少し額に汗が滲んでいる。


蓮「男に捕まらなかったですか?」


日和「えっ!?捕まってないよ?」


蓮「なら……いいです」


さっきの意味深な言葉が気になって日和先輩の目を見れない。


目を逸らした状態で話す俺を気にせず、日和先輩は持っていた袋の中から箱を取り出す。


パカッと開いた中にあったのは2つの指輪。


確かこれって---。


日和「初デート記念でペアリング買ってきちゃった……!!サプライズみたいな!!」


渡された指輪は日和先輩と同じ。


お揃いのペアリングを貰えただけで、日和先輩が笑うだけでさっきの不安の感情はかき消されていく。


でも少しは心残りがあって引っかかる。


そんなの今気にすることじゃない。


蓮「日和先輩、指輪貸してください」


指輪を受け取って俺は日和先輩の左手を取った。


薬指にしようか迷ったけど、人差し指にはめた。


薬指はもしも結婚した時のために残したいって思ったから。


まだ付き合ってない俺が言えることじゃないけど、これから日和先輩のそばは俺だけがいい。


一生隣は俺だけだって知らしめたい。


改札前・夕方5時頃


蓮「日和先輩、今日はありがとうございました」


日和「うん!!楽しかったよ!!ありがとう……!!また明日ね!」


日和先輩が乗る電車がやってきて、日和先輩は乗り込んだ。


ドアが閉まって、窓から手を振ってくれたからすぐに振り返す。


本当の恋人同士なら、別れ際にハグをしたりキスをしたりなんでも出来ただろうけど。


あくまでもこれはお試しだからこれ以上線を越えられない。


……電車の中は人が多いから、日和先輩に何があるか分からなくて心に黒いモヤがかかる。


明日も日和先輩に会えるから。


これ以上心配をする必要は無い、と俺は自分に言い聞かせた。
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