少し愛重めな橘くんは溺愛症候群
その想いを
朝・改札前
日和「おはよう!!」
蓮「おはようございます」
デートの次の日の月曜日。
当たり前になった改札前での挨拶。
その後、当たり前のように繋いだ手。
だけど俺はずっと引っかかることがあって、今まで通り日和先輩に接することが出来なくなっていた。
日曜日・ショッピングセンターでの回想
敦「お試し恋愛と言って"また"日和を傷つけるのはやめてくれ。だから別れて欲しい」
回想終了
敦さんのその言葉が、日和先輩の不審な様子に繋がった。
隣で今日寝坊しちゃって寝癖が取れてないんだよね、と笑っているのにたまに辛い顔をする。
ピアノを習わなくなった理由だって、多分関係しているのだろう。
日和「今日も放課後行ってもいいかな?」
蓮「もちろん大丈夫です」
放課後、俺がいっていた音楽室はいつの間にか2人で会える唯一の場所になっていた。
他の奴らに絶対バレないような場所は音楽室だけ。
登校する時も周りに同じ学校の制服を来たやつがいないか、チラチラと確認しながら歩いた。
本当は堂々としていたいけど、これも全部日和先輩のため。
愛しくてたまらない日和先輩が、ずっと俺の隣で笑っていて欲しいから。
だから俺は絶対に、日和先輩を離さないし、誰にも渡さない。
誰にもバレないように、俺は日和先輩を深く愛し続けるから。
♡
昼休み・屋上・小屋の中
音楽室とは別で、今日は屋上で会った。
誰か他のやつがいたら一緒に居られないけど、小屋の中ならギリ大丈夫。
日和「蓮くん、今日もご飯無しなの?」
蓮「はい。別にいらないので」
日和「んー、じゃあ私、明日からお昼ご飯作ってあげるね!!」
俺の食生活がダメすぎて心配をしてくれる日和先輩が、まるで女神のように思える。
毎日日和先輩の手料理を、それも学校で食べられるとか幸せどころじゃない。
頷くと、日和先輩も笑いながら頷いた。
蓮「日和先輩がいいのならお願いします」
日和「もっちろん!!ふふっ、でもお兄ちゃん怒るかな」
次はお兄ちゃん……敦さんのことを心配し始めた日和先輩に、少しだけ胸がドキリとした。
敦さんの言っていた、また傷つけるなという忠告が頭の中でよぎる。
ミートボールを口に入れて美味しそうに頬張る日和先輩に、今こんなことを言うのはダメだ。
日和先輩の過去に何かあったのなら、それを聞いたら苦しい気持ちになるかもしれない。
でも……。
日和先輩が今、辛い思いをしていたり、何か過去を思い出しているなら俺は日和先輩に寄り添いたい。
だから。
蓮「日和先輩、過去に何かあったんですか?」
日和「……え?」
俺の言葉に驚いて箸を落としてしまった。
すぐに拾って日和先輩を見ると、明らかに動揺していて目が泳いでいた。
目の奥には辛い色が見えていて、少しだけ手が震えている。
日和「な、なな、なにもないよ……」
蓮「嘘つかないでください。敦さんに聞きましたから」
日和「っ……!?お兄ちゃんに……!?いつ」
蓮「日和先輩かこの指輪を買いに行った時に会ったんです」
ポケットから指輪を取りだして、俺は人差し指にはめた。
小さく埋め込まれた宝石が輝いていて綺麗。
それとは対照的に日和先輩の顔は歪んでいる。
目は少しだけ涙で潤んで、すぐに顔を覆ってしまった。
日和「本当に……何も無いの……。だから……」
蓮「何も無かったらこんな事にはならないです。……日和先輩、ピアノをやめたことも関係してるんですよね?」
問い詰めるような形になってしまったけど、これは俺が聞きたいこと全て。
俺の事を信じて欲しい。
俺の瞳から逃れられない日和先輩は、目を逸らして涙を1粒落とす。
そして何故か笑って涙を吹いた。
日和「ふ、あはは。蓮くんには何でもお見通しなんだねぇ……。じゃあ私の過去教えるね」
辛いことのはずなのに、何故か笑って俺に話そうとしているのが謎だった。
だけど日和先輩が話してくれるのが嬉しくて、そんなのは全く気にならない。
俺は日和先輩の右手をギュッと握ると、日和先輩は安心したようにポツリポツリ、と自分の過去を話してくれた。
日和「あのね、私がずっと引きずってるのは小学六年生の頃の話なんだけど……」
(日和の過去の回想・日和side)
あれは小学六年生の時だった。
突然の出来事。
母「お父さんとお母さん、どっちの方が日和は好き?」
家から帰ってきたらいつもと同じ笑顔で、そんなことを聞かれた。
お父さんもお母さんもどっちも好きだ。
社交的で優しい笑顔が特徴的なお父さん。
いつも笑顔でのんびりとした雰囲気のお母さん。
普通の家庭、普通の娘、普通の兄を持った四人家族でどこにでもいるような家庭だった。
家族の中でも、お母さんとお父さんは仲が良くて、お互いを愛し合っている関係のように思えた。
それは私だけじゃなくて、お兄ちゃんも、友達もみんなそう見えているって。
だからあの時は"あんなこと"が起こるなんて知らなかったの。
そう、あの夜に私は全てを知ってしまった。
(日和の過去の回想・夜0時・日和の部屋)
私が小学六年生の頃はいつも10時半には寝ていた。
友達からは真面目だ、とか早いね、と言われていたけどその習慣が執着してその時間になると眠たくなってきちゃうんだ。
寝る前にはしっかり用を足し、唇が乾燥しないようにリップを塗って、寝る前に少しだけ本を読んで寝る。
だけどその日は眠たくてお手洗いに行くのを完全に忘れていて。
午前0時、いつもは起きない時間に起きてしまった。
お兄ちゃんはその日、友達の家にお泊まりをしに行っていて居なかった。
自室から出てトイレに行って戻る際、一階にいるお母さんとお父さんの声が聞こえてきた。
一階の声はいつも聞こえないのに、今日は何故か聞こえた。
ゆっくりと階段を降りて、リビングに近づいていくうちに声は大きくなる。
聞こえてきた声はいつもの優しい声じゃなかった。
荒々しい二人の声が重なっていてゾクリと背筋が凍った気がした。
母「だからお金を使いすぎだって言ってんの!!」
父「小遣いから自分の飯を買って何が悪いんだよ!!お前には関係ないだろう!?」
母「関係あるわよ!!家計を管理してるのは私だし日和とか敦のご飯は私が作るのよ!?お金に1番関係なるのは私じゃない!!」
父「だからと言って俺が使いすぎな理由にはならないだろ!」
日和「え……おかあ……さん?お……とうさん……?」
か細い小さな声。
怒鳴るお母さんとお父さんには私の声なんて1ミリも聞こえていない。
日和「嫌……どうしたの?」
次第には涙が溢れて、その場から動けなくなった。
リビングに繋がるドアに手をかざして、ひたすらに泣いた。
母「元はと言えば日和が生まれてから!!日和が生まれてから貴方はお金遣いが荒すぎるのよ!!」
怒鳴り続けるふたりの声を聞いていた時、お母さんの言った言葉が胸に刺さった。
私が生まれてからお父さんは変わったって……え?
お母さんは……私が要らなかったってこと……?
お母さんは、いつも大好きよ、と言ってくれたりする暖かい人だ。
だから信じられないの。
母「日和なんて作らなきゃ良かったのに……!!あなたが!!」
私を作らなきゃ良かった、産まなきゃ良かったなんて言っていることが。
私を愛してくれていたはずのお母さんはもう居ないの?
好きなんて嘘なの?
私の事好きでも無くて、愛していなかったんだったら好きってなんなの……?
お父さんはお母さんに恋をしていて、私のように大好きだったんじゃないの?
恋とか愛って……結局すぐ壊れちゃうものなの……?
ただただ怖くなって、私は足音を立てないように2階へ上がった。
泣き続けた夜。
好きとか恋とか、愛が全く分からなくなった夜。
辛くて、お母さんとお父さんの裏を見てしまった気がして痛かった。
その約1週間後。
家から帰るとどっちが好きか聞かれたんだ。
どっちが、なんてないし2人とも好き。
でもお母さんとお父さんが、私のことを要らない、って言っていたのを知っているから。
だから私はどっちが好きか答えられない。
好きだって言っても、2人は元から好きなんて思ってなかったんだ。
母「お母さんとお父さん離婚するから。どっちについて行くか早く決めなさい」
優しかったのに。
私のこと大好きって言ってくれてたのに。
いつものお母さんが辛辣で荒い口調で命令してくるのが、私の心を痛ませる。
拳を強く握って涙をこらえた。
(私は……好きなんてもう信用出来ないよ。どっちについて行くとかわかんないっ……!!)
もう頭がパンクしちゃったんだろう。
何も考えられなくて、ただ変わり果てたお母さんとお父さんを見つめることしかできなかった。
次の日には私とお兄ちゃんは、とりあえず従兄弟の家に連れていかれた。
母「この子達をよろしくお願いします」
淡々とした口調で私たちを預けると、寂しい背中が遠ざかって言った。
日和「お母さんっ!!」
敦「母さん!!どこ行くんだよ!!」
母「日和。敦だけだったら楽だった。あんたさえ居なければ。敦、じゃあね」
お兄ちゃんにだけさよならの言葉を言って、私にはいなかったら良かったと言った。
それにまた涙が零れて、従兄弟の友達に慰めてもらった。
慰めてもらっても癒えない傷。
これからも一生、好きなんてわかんない。
信じられないって、そう思った地獄のような日だった。
(回想終了)
蓮side
日和「それで私は最近恋を知りたいなって思い始めた。……ごめんね、こんな話」
話をしている途中から泣き始めてしまった日和先輩を、俺は黙って抱きしめているだけ。
何も言えない。
こんな過去があったなんて知らなかった。
包み込むように強く、かつ優しく抱きしめる。
日和先輩は黙って俺の背中に手を回し、泣きじゃくる。
日和「ごめんね、黙ってて。言ったら感情がっ……溢れそうで……っ」
蓮「そんなの早く言ってくださいよ。迷惑なんて全く思いませんし、何処まででも頼ってください……」
日和先輩は頼ることも恋も知らない。
早く言ってくれたら、俺はいくらでも。
日和「ありがとう……蓮くん。もう少しだけこのまま……」
ぎゅうっと俺に抱きついた日和先輩は、昼休みが終わる直前まで泣きじゃくっていた。
日和「おはよう!!」
蓮「おはようございます」
デートの次の日の月曜日。
当たり前になった改札前での挨拶。
その後、当たり前のように繋いだ手。
だけど俺はずっと引っかかることがあって、今まで通り日和先輩に接することが出来なくなっていた。
日曜日・ショッピングセンターでの回想
敦「お試し恋愛と言って"また"日和を傷つけるのはやめてくれ。だから別れて欲しい」
回想終了
敦さんのその言葉が、日和先輩の不審な様子に繋がった。
隣で今日寝坊しちゃって寝癖が取れてないんだよね、と笑っているのにたまに辛い顔をする。
ピアノを習わなくなった理由だって、多分関係しているのだろう。
日和「今日も放課後行ってもいいかな?」
蓮「もちろん大丈夫です」
放課後、俺がいっていた音楽室はいつの間にか2人で会える唯一の場所になっていた。
他の奴らに絶対バレないような場所は音楽室だけ。
登校する時も周りに同じ学校の制服を来たやつがいないか、チラチラと確認しながら歩いた。
本当は堂々としていたいけど、これも全部日和先輩のため。
愛しくてたまらない日和先輩が、ずっと俺の隣で笑っていて欲しいから。
だから俺は絶対に、日和先輩を離さないし、誰にも渡さない。
誰にもバレないように、俺は日和先輩を深く愛し続けるから。
♡
昼休み・屋上・小屋の中
音楽室とは別で、今日は屋上で会った。
誰か他のやつがいたら一緒に居られないけど、小屋の中ならギリ大丈夫。
日和「蓮くん、今日もご飯無しなの?」
蓮「はい。別にいらないので」
日和「んー、じゃあ私、明日からお昼ご飯作ってあげるね!!」
俺の食生活がダメすぎて心配をしてくれる日和先輩が、まるで女神のように思える。
毎日日和先輩の手料理を、それも学校で食べられるとか幸せどころじゃない。
頷くと、日和先輩も笑いながら頷いた。
蓮「日和先輩がいいのならお願いします」
日和「もっちろん!!ふふっ、でもお兄ちゃん怒るかな」
次はお兄ちゃん……敦さんのことを心配し始めた日和先輩に、少しだけ胸がドキリとした。
敦さんの言っていた、また傷つけるなという忠告が頭の中でよぎる。
ミートボールを口に入れて美味しそうに頬張る日和先輩に、今こんなことを言うのはダメだ。
日和先輩の過去に何かあったのなら、それを聞いたら苦しい気持ちになるかもしれない。
でも……。
日和先輩が今、辛い思いをしていたり、何か過去を思い出しているなら俺は日和先輩に寄り添いたい。
だから。
蓮「日和先輩、過去に何かあったんですか?」
日和「……え?」
俺の言葉に驚いて箸を落としてしまった。
すぐに拾って日和先輩を見ると、明らかに動揺していて目が泳いでいた。
目の奥には辛い色が見えていて、少しだけ手が震えている。
日和「な、なな、なにもないよ……」
蓮「嘘つかないでください。敦さんに聞きましたから」
日和「っ……!?お兄ちゃんに……!?いつ」
蓮「日和先輩かこの指輪を買いに行った時に会ったんです」
ポケットから指輪を取りだして、俺は人差し指にはめた。
小さく埋め込まれた宝石が輝いていて綺麗。
それとは対照的に日和先輩の顔は歪んでいる。
目は少しだけ涙で潤んで、すぐに顔を覆ってしまった。
日和「本当に……何も無いの……。だから……」
蓮「何も無かったらこんな事にはならないです。……日和先輩、ピアノをやめたことも関係してるんですよね?」
問い詰めるような形になってしまったけど、これは俺が聞きたいこと全て。
俺の事を信じて欲しい。
俺の瞳から逃れられない日和先輩は、目を逸らして涙を1粒落とす。
そして何故か笑って涙を吹いた。
日和「ふ、あはは。蓮くんには何でもお見通しなんだねぇ……。じゃあ私の過去教えるね」
辛いことのはずなのに、何故か笑って俺に話そうとしているのが謎だった。
だけど日和先輩が話してくれるのが嬉しくて、そんなのは全く気にならない。
俺は日和先輩の右手をギュッと握ると、日和先輩は安心したようにポツリポツリ、と自分の過去を話してくれた。
日和「あのね、私がずっと引きずってるのは小学六年生の頃の話なんだけど……」
(日和の過去の回想・日和side)
あれは小学六年生の時だった。
突然の出来事。
母「お父さんとお母さん、どっちの方が日和は好き?」
家から帰ってきたらいつもと同じ笑顔で、そんなことを聞かれた。
お父さんもお母さんもどっちも好きだ。
社交的で優しい笑顔が特徴的なお父さん。
いつも笑顔でのんびりとした雰囲気のお母さん。
普通の家庭、普通の娘、普通の兄を持った四人家族でどこにでもいるような家庭だった。
家族の中でも、お母さんとお父さんは仲が良くて、お互いを愛し合っている関係のように思えた。
それは私だけじゃなくて、お兄ちゃんも、友達もみんなそう見えているって。
だからあの時は"あんなこと"が起こるなんて知らなかったの。
そう、あの夜に私は全てを知ってしまった。
(日和の過去の回想・夜0時・日和の部屋)
私が小学六年生の頃はいつも10時半には寝ていた。
友達からは真面目だ、とか早いね、と言われていたけどその習慣が執着してその時間になると眠たくなってきちゃうんだ。
寝る前にはしっかり用を足し、唇が乾燥しないようにリップを塗って、寝る前に少しだけ本を読んで寝る。
だけどその日は眠たくてお手洗いに行くのを完全に忘れていて。
午前0時、いつもは起きない時間に起きてしまった。
お兄ちゃんはその日、友達の家にお泊まりをしに行っていて居なかった。
自室から出てトイレに行って戻る際、一階にいるお母さんとお父さんの声が聞こえてきた。
一階の声はいつも聞こえないのに、今日は何故か聞こえた。
ゆっくりと階段を降りて、リビングに近づいていくうちに声は大きくなる。
聞こえてきた声はいつもの優しい声じゃなかった。
荒々しい二人の声が重なっていてゾクリと背筋が凍った気がした。
母「だからお金を使いすぎだって言ってんの!!」
父「小遣いから自分の飯を買って何が悪いんだよ!!お前には関係ないだろう!?」
母「関係あるわよ!!家計を管理してるのは私だし日和とか敦のご飯は私が作るのよ!?お金に1番関係なるのは私じゃない!!」
父「だからと言って俺が使いすぎな理由にはならないだろ!」
日和「え……おかあ……さん?お……とうさん……?」
か細い小さな声。
怒鳴るお母さんとお父さんには私の声なんて1ミリも聞こえていない。
日和「嫌……どうしたの?」
次第には涙が溢れて、その場から動けなくなった。
リビングに繋がるドアに手をかざして、ひたすらに泣いた。
母「元はと言えば日和が生まれてから!!日和が生まれてから貴方はお金遣いが荒すぎるのよ!!」
怒鳴り続けるふたりの声を聞いていた時、お母さんの言った言葉が胸に刺さった。
私が生まれてからお父さんは変わったって……え?
お母さんは……私が要らなかったってこと……?
お母さんは、いつも大好きよ、と言ってくれたりする暖かい人だ。
だから信じられないの。
母「日和なんて作らなきゃ良かったのに……!!あなたが!!」
私を作らなきゃ良かった、産まなきゃ良かったなんて言っていることが。
私を愛してくれていたはずのお母さんはもう居ないの?
好きなんて嘘なの?
私の事好きでも無くて、愛していなかったんだったら好きってなんなの……?
お父さんはお母さんに恋をしていて、私のように大好きだったんじゃないの?
恋とか愛って……結局すぐ壊れちゃうものなの……?
ただただ怖くなって、私は足音を立てないように2階へ上がった。
泣き続けた夜。
好きとか恋とか、愛が全く分からなくなった夜。
辛くて、お母さんとお父さんの裏を見てしまった気がして痛かった。
その約1週間後。
家から帰るとどっちが好きか聞かれたんだ。
どっちが、なんてないし2人とも好き。
でもお母さんとお父さんが、私のことを要らない、って言っていたのを知っているから。
だから私はどっちが好きか答えられない。
好きだって言っても、2人は元から好きなんて思ってなかったんだ。
母「お母さんとお父さん離婚するから。どっちについて行くか早く決めなさい」
優しかったのに。
私のこと大好きって言ってくれてたのに。
いつものお母さんが辛辣で荒い口調で命令してくるのが、私の心を痛ませる。
拳を強く握って涙をこらえた。
(私は……好きなんてもう信用出来ないよ。どっちについて行くとかわかんないっ……!!)
もう頭がパンクしちゃったんだろう。
何も考えられなくて、ただ変わり果てたお母さんとお父さんを見つめることしかできなかった。
次の日には私とお兄ちゃんは、とりあえず従兄弟の家に連れていかれた。
母「この子達をよろしくお願いします」
淡々とした口調で私たちを預けると、寂しい背中が遠ざかって言った。
日和「お母さんっ!!」
敦「母さん!!どこ行くんだよ!!」
母「日和。敦だけだったら楽だった。あんたさえ居なければ。敦、じゃあね」
お兄ちゃんにだけさよならの言葉を言って、私にはいなかったら良かったと言った。
それにまた涙が零れて、従兄弟の友達に慰めてもらった。
慰めてもらっても癒えない傷。
これからも一生、好きなんてわかんない。
信じられないって、そう思った地獄のような日だった。
(回想終了)
蓮side
日和「それで私は最近恋を知りたいなって思い始めた。……ごめんね、こんな話」
話をしている途中から泣き始めてしまった日和先輩を、俺は黙って抱きしめているだけ。
何も言えない。
こんな過去があったなんて知らなかった。
包み込むように強く、かつ優しく抱きしめる。
日和先輩は黙って俺の背中に手を回し、泣きじゃくる。
日和「ごめんね、黙ってて。言ったら感情がっ……溢れそうで……っ」
蓮「そんなの早く言ってくださいよ。迷惑なんて全く思いませんし、何処まででも頼ってください……」
日和先輩は頼ることも恋も知らない。
早く言ってくれたら、俺はいくらでも。
日和「ありがとう……蓮くん。もう少しだけこのまま……」
ぎゅうっと俺に抱きついた日和先輩は、昼休みが終わる直前まで泣きじゃくっていた。