ファースト・デート

01

 高校二年目。今年も図書委員に立候補した。

 本が好き。あたしを夢の世界に連れて行ってくれるから。

 そんな本に囲まれた図書室が好き。あたしの安らぎの場所だから。



 初めての図書当番。

 あたしは経験者ということもあって、一年生の男の子の指導を任された。



「僕、福原瞬(ふくはらしゅん)です……よろしくお願いします……」

「あたし、花崎梓(はなさきあずさ)。よろしくね」



 可愛い子だ。目がくりくりってしてる。

 背は男の子にしては低めだけど、あたしがもっとちっちゃいから見上げることになる。

 正直、背の高い男の子は苦手だから……福原くんと組むことになって安心した。



「それじゃあ、福原くん。貸出機の説明するね……」



 ここの図書室では、貸出は生徒が自分で貸出機を操作して行うことになっていた。

 生徒証のバーコードを読み取らせて。本を台の上に置いて。そうすれば貸出機が勝手に本を認識してくれる。簡単だ。

 けれど、たまーにわからないという生徒もいて、手助けをするのが図書委員の仕事。



「試しに福原くん、一冊借りてみる?」

「そうですね」



 福原くんは文庫本がある棚に行って、少し迷った後、一冊抜き取って戻ってきた。そして、貸出機を使った。



「花崎さん……これでいいんですか?」

「そうそう。貸出票が出てきたらオッケーだよ」



 福原くんが借りたのは、何やら難しそうなタイトルの本だった。「幼年期の終わり」だって。



「福原くん、それってどんな本?」

「SFですよ。クラーク、好きなんです。これはまだ読んだことなくて」

「へぇ……」



 あたしはSFを読んだことがない。それよりもエルフや妖精が出てくるファンタジーが好み。

 福原くんって、けっこう頭いいのかもしれない。

 それから、こんどは返却。こちらは図書委員が生徒証と本のバーコードを読み取って、パソコンで貸出状況を確認する。

 もしも、貸出期限が過ぎている本があって、延滞になっていれば、それを言わなければならない。

 まあ、去年一年間、そんなことになったことは一度もない。

 そもそも……この高校の図書室は利用者が少ない。

 だからこそ、いいんだけど。

 福原くんは、あれこれパソコンをいじってみて、感覚をつかんだみたいだ。



「花崎さん、パソコンの使い方はなんとなくわかりました」

「じゃ、あとはお話でもしよっか!」

「えっ、いいんですか?」

「どーせ誰も来ないもん。福原くんの好きな本の話、もっと聞かせて?」



 福原くんのSF好きは、お父さんの影響らしい。小さい頃から色んな映画を見せられたのだとか。

 それで、本も読むようになったみたい。あたしもちょっぴりSFに興味が出てきた。



「……花崎さん、優しいんですね」

「そう?」

「こんな風に、僕のつまらない話聞いてくれた人、初めてで」

「つまらなくなんかないよ? 面白かった!」



 あたしは心の底からそう思っていて。

 それから、福原くんと過ごすのが楽しみになった。
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