ファースト・デート

05

 遊園地のゲートをくぐって、夢からは出てしまったはずなのに。

 あたしはまだ、現実の世界に帰ることができないでいた。

 乗り物にパレード、観覧車の記念写真……。

 福原くんと、たくさんの「初めて」を経験してしまった。

 電車の中で、福原くんが聞いてきた。



「あのぅ、花崎さん。今日は楽しかったですか?」

「楽しかった! すっごく楽しかった! なんかさ、あたし、振り回しちゃった?」

「そんなことないです。僕も楽しかったですよ」 

「良かったぁ」
  


 あたしが笑うと、福原くんはリュックから一枚の封筒を取り出した。



「これ……花崎さんが楽しめたのなら、渡そうと思って、持ってきたんです」 

「えっ……」 

「返事は急がないです。っていうか、返事しなくてもいいです。僕が一方的に、伝えたいことがあるだけですから」



 あたしは封筒を受け取った。白地に、水彩画だろうか、淡いピンク色の花が描かれたものだった。

 それをショルダーバッグの中に入れて、あたしたちはすっかり黙り込んでしまった。 

 期待、していいのかな? そういうことなのかな?

 福原くんの顔は、全く見ることができなかった。
 


「じゃあ、花崎さん。今日はありがとうございました」

「ありがとう、福原くん。その……返事、するから。絶対するから」

「……無理、しないでくださいね」



 早足で家に帰って、自分の部屋に飛び込み、震える手で封を開けた。

 男の子っぽいちょっと角ばった字で、こんなことがつづられていた。



『花崎梓さんへ。

 素直な気持ちを伝えます。

 僕は花崎さんが好きです。

 図書室だけじゃなくて、もっと色んな場所で、花崎さんと一緒に過ごしたいと思うようになりました。

 それで、遊園地に誘いました。

 きっと、僕にとって一生の思い出になると思います。

 けれど、僕は欲張りです。

 花崎さんと、もっともっと思い出を作りたいです。

 僕を彼氏にしてください。

 福原瞬より』



 ぽと、ぽと。

 涙が頬を伝っていた。

 どう返事をするかなんて、決まっている。

 だって。だって。

 あたしも福原くんのことが、好きなんだから。

 そのことには、観覧車で気付いた。

 あたしは、福原くんのことを、ただの図書委員仲間じゃなくて、一人の男の子として想っているんだ。



「あっ……でも、そっか」



 レターセットがないんだった。手紙なんて、誰にも書いたことがないから。

 福原くんも、これが初めての手紙だったのかな?

 そうだといいな。



「……よし」



 今日はもう遅い。

 明日、買いに行こう。そして、書いて、月曜日に渡そう。

 それからは、彼のことを……下の名前で呼ぶんだ。



fin
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