おりの中、狂った愛を、むさぼり合う
「紫吹に関して全く同感です。同じ裏に生きる者として、享受しがたいですから」
「ふふ、さすが咲人。Goodboy」
Goodboyは雪光さんの口癖だ。渡米経験がある雪光さんは流暢な英語を喋れるから、いやに良い発音で褒めてくれる。
褒めてくれる、のだが――
口角は上がっているものの、この場に流れる空気に〝蜂の針〟がたんまり混じっている。言わずもがな、雪光さんの怒気だ。丁寧な言葉の端々から、肌がヒリつくほどの憤りが伝わってくる。
出会った人から「おっかない人」と分かっていた。だが、ここまでおっかないとは……。
「じゃあ咲人、紫吹のこと頼んだよ。わかっていると思うけど〝最小限の戦力〟だ。今ビトラ組はあちこちに勢力拡大中でね、一つの箇所に人員を割けないんだ」
「……分かっています」
「この指令のコード名は、M(エム)。次から話す時はコレでお願い。それじゃ、良い報告を楽しみにしているよ」
「はい」
代表取締役室を出た直後、浅く息を吐く。
頭にあるのは、わずかな乱れ。
理由は、さっき託された使命にある。