おりの中、狂った愛を、むさぼり合う


「行ってきます、咲人さんッ」

「……うん」


俺が返事したのが嬉しかったらしい。何度も何度も「行ってきます」と言った。

結局――少女が家を出たのは、部下にメールを送ってから十分後。やっと俺も、リビングに移動する。

すると机上には、散乱した小型のGPSや盗聴器――差出人不明の誰かが、俺の服やカバンに秘密に忍ばせた物を、昨夜この手で壊した残骸だ。


「毎日毎日飽きもせず、ご苦労なことだ」


日常茶飯事の光景に見飽きる。
俺を恨む者は、どうやら相当数いるらしい。

毎日のことだから、数日分まとめてゴミ箱へ捨てている。昨夜もしかりだ。破壊するも、捨てる量に満たなかったから置きっぱなしにしていた。


「こんなのを見ても、あの子は何も言わないのか……」


机上に堂々と置いていたから、当然、少女も見たはず。

だけど、少女は何も言わなかった。まるで「これが何か?」と言わんばかりだ。……粉砕されているから、これが何か分かっていない可能性の方が高いが。

しかし、それでも、だ。

少女の目に写っているのは、いつも俺だ。
裏も表も関係なく。
そんな概念なんて蹴飛ばして。
ただ一人の男として、真っすぐ俺を見ている。

< 242 / 350 >

この作品をシェア

pagetop