おりの中、狂った愛を、むさぼり合う


「な……ボス!」


噛みついた咲人さんに、ひらりと。雪光さんが手を振る。


「ということは、咲人は今から一般人だ。警察は、彼を丁重に扱わなければね」

「もう俺は用済みですか?」
「部下を、見捨てるのか?」


咲人さんと、指揮官の声が重なる。
一方は震えた声、もう一方はしっかりした声。

そんな二人を見て、雪光さんは笑い声を押し殺した。白いスーツに日光が反射し、表情はハッキリしない。届くのは、くぐもった笑い声くらい。


「そこが分からないうちは、君たちも〝まだまだ〟だね。

あぁ、そうそう。咲人を殺すのは賢明じゃないと言ったのは、僕のボディーガードを殺せるのは咲人しかいないからだよ」


ボディーガードと言った時、前に立つ飛鷹さんの肩に手を置く。寝耳に水の話だったのか、本人は目を開いて驚いていた。


「ボディーガードって俺のこと?」

「兼、今日から右腕。頼んだよ、周」

「よりにもよって、サツの前で任命するな」


はぁ~とため息をつく飛鷹さんを見て、何かを感じたらしい。咲人さんは、それ以上は何も喋らず口を閉じた。

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