おりの中、狂った愛を、むさぼり合う

唇を噛み締めながら下を向く小野寺さんだったけど、意を決したのか。咲人さんに向かって、首(こうべ)をたれた。


「命を軽んじる失礼なことを言った……すまない」


正直に、真正面から謝られ、咲人さんは目を丸くする。本当に謝るとは思わなかったらしい。


「ふふ、素直でよろしい。
良い人ですね、小野寺さん!」

「っ!」

「あ、年上の人に〝素直でよろしい〟なんて言っちゃダメですよね。すみません……。

ん?どうかしましたか、小野寺さん」

「え、あ……いえ」


首を傾げると、磁石同士が引き合うように小野寺さんの背筋がピンと伸びた。次に「じゃあ俺は、これで失礼します」と。机の角に足をぶつけながら、足早に退室する。


(顔が赤いけど風邪かな?それとも……過労?)


小野寺さんを疲れさせている当事者なので、少しだけ申し訳ない気持ちになる。すると後ろから突然、椅子ごと抱きしめられた。


「こら、ミミ」


言わずもがな、咲人さんだ。

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