おりの中、狂った愛を、むさぼり合う
不思議に思っていると、おでこに乗る咲人さんの手が上へ移動する。頭を撫でてくれるの⁉と期待したけど……残念。大きな手はすぐ離れた。
もしかして、もう出て行くのかな?
それなら愛のこもった挨拶をしよう!
「いってらっしゃい咲人さん、ずっと大好きですからね!」
「……」
(ん?)
咲人さんは何も言わない。
どうしたんだろう。
もしかして調子悪い?
一気に不安になる。もし調子悪いなら無理して行かないでほしいし、家でゆっくり休んでほしい。
……と言っても、私には咲人さんを止める権利も、意見する権限もないんだけど。
(うぅ。何も出来ないって、すごく歯がゆい)
二人が静かにしている間、車のタイヤ音や虫の鳴き声が聞こえる。そんな中、静寂をかき消したのは、なんと咲人さんのため息。
口ではなく、鼻から息を出した咲人さん。頭を下げた後、チラリと私を覗き込む。それはちょっとした上目遣いにも見えて、
『咲人さんの上目遣い、すっごく見たい!』
さっきのお願い事が、早くも叶った瞬間だった。
だけど……素直に喜べない。