甘×辛MIX

1st step

◯化粧品メーカー『S.make』オフィス内


ヒールが床を踏みしめる音が高らかに響く。
唐沢杏璃は背筋をまっすぐに伸ばし、前だけを見つめて闊歩していた。
ブラウスとカラーパンツのいたってシンプルな出で立ちながら、長い黒髪を揺らして歩く姿はモデルのように映る。

杏璃が通り過ぎる際、後輩たちがひそひそとささやきあう。

後輩1「唐沢さんだ。相変わらず美人」

後輩2「あの美貌で仕事もデキるし、羨ましいわ」

後輩1「まだ27歳だっけ? あの若さでサブチーフなんてねぇ」

羨望の眼差しを向ける後輩たち。
反対に冷ややかな眼差しを向けている、先輩社員である梶悠里と同僚の野本美雪。

悠里「美人は得よね。ちょっと企画が当たったくらいですぐ昇進」

美雪「澄ましちゃって、嫌味な感じですよねぇ」

周囲の声は聞こえないふりをし、足を止めずに進む杏璃。

杏璃(文句言ってる時間があるなら、人の倍仕事こなせっつーの)

表情には出さないまま、心の中で悪態をついて舌を出す。

杏璃(こっちはあんたたちがくだらない噂話してる間も、必死で仕事してるんだよ)
(容姿に気遣うのも仕事の一環。それのなにが悪いっていうのよ)

ミーティングルームの前で立ち止まる杏璃。ドアの向こうで話し合う数人の声が聞こえる。
ドアをノックし、中に呼びかける。

杏璃「失礼いたします、唐沢です。お待たせいたしました」

ドアの向こうから部長の声が答える。

部長「入りなさい」
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