甘×辛MIX
◯介護施設『あすかの里』・談話室


連れてこられた場所に唖然とする杏璃。

杏璃(な)
(なんで老人ホーム…!?)

立ち尽くす杏璃をよそに、談話室でくつろぐ入居者のひとりに声をかける咲也。

咲也「ばあちゃん」

ソファに腰をかけて談笑していた高齢女性が振り返る。
柔和な表情が咲也にどこか似ている。

咲也の祖母(天野織江)が咲也を見てにっこり笑う。

織江「サクちゃん、いらっしゃい」

織江に近寄りながら手を振る咲也。

咲也「久しぶり、ばあちゃん。元気だった?」

織江は座ったまま杖を握っている。

織江「(ふふっと笑い)元気だよぉ」
「サクちゃんの顔見たら、いつもより元気になったわ」

咲也「あははっ、なら来たかいがあったよ」

祖母の肩をぽんぽんと叩き、祖母とおしゃべりをしていた入居者たちにも話しかける咲也。
その姿を呆然と眺める杏璃。

咲也「ミヨさん、今日のカーディガン素敵だね。花柄で可愛いよ」

ミヨ「孫がプレゼントしてくれたのよぉ」

咲也「あっ、トモコさん、髪型変えた? 前より20歳くらい若返ってる」

トモコ「また口がうまいねぇ、サクちゃんは」

咲也「キイチさん、約束してた小説持ってきたよ。あとで受付の人に渡しとくね」

キイチ「助かるよ。サクとは趣味が合うからなぁ」

棒立ちになる杏璃に気づいた織江、咲也の服の袖を引っ張る。

織江「サクちゃん、あちらのお嬢さんは?」

杏璃(お嬢さん…)

お嬢さん呼びに戸惑う杏璃。
咲也が杏璃を手で指し示す。

咲也「今俺がインターンでお世話になってる会社の人だよ。唐沢杏璃さん」
「(杏璃を見て)唐沢さん、うちの祖母です」

あわててお辞儀をする杏璃。

杏璃「ど、どうも。唐沢と申します。」
「天野…えっと、咲也くんにはお世話に…(?)」

織江がまたふふっと笑う。

織江「おきれいな方だねぇ」
「こちらこそ孫がお世話になって。ありがとうございます」

杏璃「い、いえいえ…」

しどろもどろになりながら挨拶を交わす杏璃、穏やかにうなずく織江。

リュックから荷物を取り出す咲也。
出てきたのがメイクボックスであるのを見て、瞠目する杏璃。

メイクボックスを掲げてにこっと笑う咲也。

咲也「唐沢さん、手伝っていただけませんか?」

杏璃の顔が引きつる。

杏璃「はい…?」
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