太陽ひとつ、恋ひとつ
「航大くーん!」
「やっばい、今日もカッコいい!」
「あっ、今こっち見てなかった?」
 キャーキャーと騒ぐ周りの航大ファンたちに圧倒される余裕なんてなかった。
 航大が試合に出ている時は、純粋にチームを応援する観客になれる。カッコいい、とも思う。その点は彼女たちに同意する。
 問題なのは、ベンチにいる時の航大に向けられる、唯川さんの視線。ではなく、それを意識してしまう私自身だ。
 彼女は、一人のチームメイトを気にかけているだけ。実際、他の部員に話しかけられたらちゃんと笑顔で応対しているし、マネージャーとしての仕事もこなしている。
 私は何を、そこまで。
 そのうち航大の姿さえも見ているのが辛くなり、誰もいないグラウンドの地面を、なんてことのない木や空を、ただ見つめていた。
「きゃあああっ!」
 隣に座る女子の悲鳴で我に返った。
 その声は、さっきまで散々響き渡っていた黄色い悲鳴、と表現できるものではなかった。
「航大くんが……」
 彼女の震えた声。
 航大の身に何かが起きた。それだけはわかった。しかし、何処にいるのかがわからない。すぐに姿を見つけられない。そんな自分が哀れだった。
 あいつのことを、ずっと考えていたのに。
 あいつのことで、ずっと悩んでいたのに。
 私はただ、自分の気持ちに囚われていただけだったんだ。
「青羽くん! しっかりして!」
 地面に倒れている航大の姿を捉えることができたのは、彼に駆け寄った唯川さんの声が聞こえてから。
 それまで私は何もできなかった。その後も、担架で運ばれていく航大を見つめるだけで、何もできなかった。
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