太陽ひとつ、恋ひとつ
七月二十七日(土)
 期間限定のカップルになってから一週間が経った。
 今日は二回目のデート。航大が行きたがっていたプールにやって来た。
 平日は連日、部活漬けになるため、デートはどうしても休日に固定されてしまう。ゆえに人混みは避けられない。ここが新規オープン施設ということもあるけれど。
「おっ、似合ってんじゃん」
 ロッカールームを出ると、既に水着に着替えていた航大から、タンキニについての称賛を受けた。しかし、当の私はたった今、それに対して何かを返せる余裕がなくなってしまった。
「おい、無視か」
「……へっ?」
「なんだよ、ぼーっとして。夏バテ?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、なんだよ」
 思わず視線を逸らすと、「目ぇ見て話せ」と顔を近づけられる。反射的に自分の顔の熱が上がったのを自覚した。
「ち、違うんだって」
 実際に暑さにやられていることは否めないけれど、違う。「ぼーっとした」理由は他にある。
「ヤバーい、あの人ぉ」
「カッコいいし、超いい体してるー」
 釘付けになっている周りの女の子たちに、心の中で同意する。
 そうなのだ。航大の半裸のクオリティが、想像以上に良い。良すぎる。
 健康的に焼けた肌、広い背中に細い腰、適度に筋肉は付いていて、正面からは見事なシックスパックを堪能できる。
 見たい。けれど見られない。変に思われても嫌だし、単純に恥ずかしくなってくる。なんだこれ。
「青羽じゃん!」
 突然こちらに向けられた声に、思わず身震いした。恐る恐る顔を向けると、知らない男の子と航大がハイタッチをしていた。
「おう、偶然だな」
「あれ? 彼女?」
 彼が私に気づく。
――付き合ってるって言う。
 航大の科白を思い返していると、手を握られた。
「そ、彼女」
 つないだ手を、ぷらぷらと揺らす。
 彼女。
 その単語が私を指していることに、他の誰かに認知されていることに、想像以上に喜んでしまっている自分がいる。
 たとえ、夏休みが終わるまでの肩書きだとしても。
「なんかすげえお似合いじゃん」
「だろ?」
「邪魔しちゃ悪いから行くわ。じゃな」
「おう、またな」
 彼は後から来た彼女らしき女性に腕を組まれ、プールの方へと去っていった。その様子をなんとなく眺めていると、尋ねる前に「練習試合でよく会うんだよ」と彼の学校名も添えて説明してくれた。
「仲良いんだね」
「すげえ面白いんだよ、あいつ」
 そう言って笑った航大の顔が、肌が、太陽に反射してキラキラして、なんだか……。
「あいつ、彼女いたんだな」
 なんだか、苦しい。
「俺らも行こうぜ」
 つないだ手を優しく引かれる。
 期間限定の関係だったとしても、この手をまだ、離したくない。
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