太陽ひとつ、恋ひとつ
 浅いプールで水慣れした後に向かったのは、ここの目玉スポットである、通称・波立つプール。絶え間なく発生する造波によって、実際に海にいるような体験ができる。
「おおー、すげえ! 面白え!」
 笑顔の航大が波に揺られる。
 子どもみたい。
 夏休み前の私なら、そう思うことだろう。実際に口に出しているかもしれない。
 でもそう思わないのは、航大に対して、私の中で「関係」以外の何かしらが変化しているからであって。
「あっ、七波っ」
 航大の声に気づいたと同時に、背後から誰かがぶつかってきたような感覚を覚えた。
「わっ」
 人気スポットなゆえ、仕方がない。揺れる波に対応できていない人がほとんどなのだろう。人と人がぶつかることなんて、こういう場所ではよくあることだ。
 それだけなら、よかった。
「ご、ごめん!」
 押された反動で、航大の鎖骨に唇をつけてしまったのである。
 恥ずかしい。どうしてこうなった。
 濡れた手で鎖骨をこすり、洗い流しているつもりでいると、「なんでだよ」とツッコまれた。
「もっと強くこすったほうがいい?」
「やめろって。つーか痛えし」
 腕を強く掴まれる。思わず息が止まる。
 それは、手の熱さのせいなのか。その眼差しから目を離せないからなのか。離したくないからなのか。
 ただ、航大の濡れた髪や顔がとても綺麗で、なんだかすごく苦しくて。
 まるで水中にいるかのように、息ができない。
「……腹減った。出ようぜ」
 何事もなかったかのように、腕から手が離れた。
「えっ、もう?」
 揺れる水に翻弄されながら、私と違って器用に進んでいく航大の背中を必死に追った。
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