太陽ひとつ、恋ひとつ
「明日、来るよな?」
 プールからの帰り道。航大が突然尋ねた。
 明日? 来る? とクエスチョンマークを浮かべていると、呆れたような表情で溜息をつかれる。
「それでも彼女かよ」
 相変わらず破壊力のある単語に胸が詰まる。「期間限定だけど」とかすれた声で反論した。
「それでもいいから来て、明日の練習試合。うちのグラウンドでするから」
「えー……」
 心の声が躊躇なくそのまま出てしまった。
「てか、今日遊んでて大丈夫だったの? 試合あるのに」
「そんな大した試合じゃねえもん。顧問が相手校と知り合いとかで」
「……ふーん」
「なんで嫌なの」
「暑いじゃん」
「は? これまで来てなかったのもそれが理由?」
 頷く。むしろそれしかない。太陽に灼かれる真夏のグラウンドは、まさに地獄そのものである。
「冬は?」
「寒いから」
「だろうな。じゃあ、春とか秋は?」
 黙る。気温の問題がないからである。他にもっともな理由が浮かばない。あっけなく追い詰められた。
「めんどいだけかよ」
「課題とかあるし……」
「えっ、まだ終わってねえの?」
 マジかこいつ、みたいな表情を向けられる。
「あんだけクソ真面目に初日からやってたのに?」
「読書感想文がまだなの」
「それ以外は終わってんだろ?」
 断る、という選択肢は与えられないのか。
「来いよ、彼女だろ?」
「き」
「期間限定でも」
 言わせない、とでも言うように遮られた。
「何でもかんでも理由付けするのやめてよ」
 言い終えて、あっ、と思わず声が出た。言いすぎた。なんで、こんな。
「……そんなに行きたくねえのか」
 溜息混じりに吐かれる。胸が痛むのと同時に、困惑した。絶対怒られると思ったのに。
 ……もう、なんなの。あんたも、私も。
「じゃあもう、幼なじみとして来て」
 投げやりに言われ、「わかった」と頷いた。
 そこから家に着くまで、私たちの間に会話はなかった。
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