初恋の糸は誰に繋がっていますか?
会社からマンションまではタクシーを使うように達貴さんに言われ、今日も会社の前まで迎えに来てくれたタクシーで帰宅した。
マンションでは私が狙われている可能性があるとコンシェルジュに達貴さんが伝えたそうで、私に関しては誰であろうと通さないこと、おかしなことがあればすぐに達貴さんへ連絡が行くことになっている。
それでも入るときは周囲に気をつけてマンションに入るが、いつになればもう大丈夫と思えるのはわからない。
それよりもプロジェクトのことだ。
最悪中止となれば、リーダーである常務の責任が問われるだろうし、彼が新しく作りたかった部署も頓挫するだろう。
私が来たことで不運を呼んだのでは無いかと落ち込んでしまう。
達貴さんからは今日は帰れないから戸締まりをしっかりしておくように電話が来た。
寝る時間はあるんですか?と聞けば、大丈夫だ、心配しないでくれと言う彼の声は落ち着いている。
絶対に無理をするだろう彼に、食事は抜かないで下さいねくらいしか言えない自分がふがいない。
彼のいない広いリビングで大きなテレビをつけているが寂しい。
ソファーで膝を抱えながらぼんやりしていると、着信音が鳴ってすぐに出た。
「はい!」
『理世』
しまった、聞こえてきた声は下村さんだった。
達貴さんからだとばかり思って、確認せずに出てしまった。
こういう時期なのでなおのこと距離を空けておこうと思っていたのに。
『聞いたんだろう、デザインが漏洩したこと』
「はい」
『こっちも騒ぎなんてもんじゃない。
フィグスは疑われて一方的に契約を破棄された。
俺が森山常務と直接話をしたいと言っても取り付く島もない。
むしろそちらが情報を売ったのではと、こちらは言いたいよ』
苛立ち憤っている声。
私は何も言えなかった。
フィグスを切る決断したのはリーダーである達貴さんだろう。
彼が一番責任を負っているのだ、私が何か言う立場になど無い。