初恋の糸は誰に繋がっていますか?

「達貴さんはそんな人じゃありません。
正義感が強くて真っ直ぐな努力家です。
優しくて、私にとって何が一番かを考えてくれている。
下村さんは達貴さんのこと、尊敬しているように言いながら実際はそう思っていたんですね。
なんだか昔を思い出しました」
『待ってくれ、ごめん、言い過ぎた。
理世を横から取られて許せなかったんだ』
「そもそも私は貴方と付き合っていないのに取られたとか意味がわかりません」
『そんなことはない、理世は俺に心を許していただろう?』

あぁ、駄目だ。
言ってはならない言葉を浴びせてしまいそうになる。

「さようなら。もう連絡してこないで下さい」
『り』

電話を切った。
それでも腹の奥が煮えくり返るようだ。

下村さんは自分が私を守るのだと、過去を後悔しているのだと言っていたけれど、達貴さんのように心に届かなかった理由がわかる気がする。
下村さんはあくまで自分が中心なのだ。
自分が後悔してそれを消したいから私が必要。
だけれど達貴さんは違う。
彼だって過去に後悔していることがあったから私を助けたけれど、私が安心でいられるのなら下村さんのもとでもいいと言っていた。
彼は私の意思を尊重してくれる。
そもそも達貴さんが差し出してくれたその手を、自分から伸ばして掴んだのは私。
きっと私はあの駅で達貴さんに送ってもらった日から、恋に落ちていたんだ。

「会いたい」

安心する彼の胸の中に飛び込みたい。
良い子だと頭を撫でて欲しい。
だけれど今彼は仕事で大変なことになっているだろう。
下村さんのことで困ったことがあったら言って欲しいと言われていたけれど、今は言うタイミングじゃ無い。
明日は少しでも顔が見れたら良いなと思い、彼におやすみなさいのメールをして眠りについた。

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