初恋の糸は誰に繋がっていますか?
翌日、達貴さんは会社にいなかった。
彼が抱えているのはプロジェクトだけじゃない。
むしろ他に仕事は山積みで、昨夜は寝たのだろうか、食事を取ったのか心配だ。
「例の件、大変なことになったね」
奈津実と久しぶりにベンチでランチタイムをしている。
やはり社内にこの件が広まるのは仕方が無いが、妙な噂が出たりしていないかは気になった。
「奈津実は何かその件で耳にしてない?噂とか」
「情報を漏らしたのが誰かってのがもっぱらの話題だね。
一番広まっているのは、常務をおとしめるために誰かがやったのではってやつ」
「そんな」
常務は社内で上の人達から妬まれているのは誰もが知っていることだ。
彼がリーダーであるプロジェクトを潰せば、何かしらの責任は取らなければならない。
そこを狙っているのなら、情報を漏洩させたのは社内の人間になる。
そのことのほうが会社として恐ろしいことなのに、常務が立場を無くすことを楽しみにしている人間が多いなら、犯人を捜すのは難航しそうな気がする。
「ところでどうなの?旦那さんとの新婚生活は」
私の深刻そうな態度を気遣ってか、奈津実が明るい声で聞いてきた。
気遣いに感謝しながら苦笑いを浮かべる。
「どうって、一緒に暮らしだしたばかりだし、それでこのトラブルだから昨日も帰って来られなくて心配してる」
「まぁ今はそうだろうけど常務ならなんとかするよ」
「無理しないと良いんだけど」
「で、式はいつなの?」
「えっ?」
「結婚式よ。
人気の式場じゃ半年以上待ちなんて聞くし、進めてるんでしょ?」
結婚式なんて話題を振られて自分が驚いた。
達貴さんと結婚式。
考えたことが無い訳では無いが、どうしてもまだ疑っている。
彼は私を本当に好きでは無いのに義務感で結婚したのでは無いかと。