初恋の糸は誰に繋がっていますか?
夜の深夜一時過ぎ、達貴さんは帰ってきた。
出迎えれば寝ていて良いと言ったのにと彼は私の心配をする。
「私は色々守ってもらっているから大丈夫です。
まずはお風呂に入ってきて下さい。
何か軽く食べますか?」
「一晩帰らないと、妻は俺のことを上司としか見てくれないらしい」
ん?と思ったが話し方が砕けていないと指摘されたと気づいて口をとがらせた。
「そうです。
あまり帰らないと、目の前の人が旦那さんだとわからなくなるかもしれません」
「それは困る。毎日君の元へ帰るように努力するよ」
彼は目を細めて私の頭を軽く撫でると、まずはバスルームへと向かった。
もう一人だというのに受け取った鞄で照れた顔を隠しながら、鞄を置くために立つ達貴さんの部屋へ行った。
ソファーに二人で座りながら、前で流れているのは海外のニュース番組。
早い英語が繰り広げられて私にはほぼわからないが、達貴さんはもちろんわかるようで時折この番組をつけている。
私にはただのBGMにしかならないけれど。
風呂上がりに軽くお酒が飲みたいと言うのでワインを用意した。
お酒だけではよくないのでチーズを二種類ほど切って置いておいたら、たったこれだけのことなのに彼は嬉しそうに礼を言ってくれた。
「情報漏洩の件、どうなりましたか?
あ、私にも話すのはまずいですよね」
「そうだな、ここにいるのが部下ではなくて妻になら話しても良いかもしれない」
こういう意地悪をされて嫌にならないのは、彼が楽しそうに私を見つめるからだろう。
その瞳の奥に、私を大切にしているという気持ちを感じてしまうから。
「達貴さん、お仕事どうなの?」
「まぁギリギリ及第点としよう」
「意地悪」
彼は軽く笑って赤ワインを飲んだ。