初恋の糸は誰に繋がっていますか?

もしかして。

キスされるのかもと目を瞑るべきか頭の中がぐるぐるする。

「何か気になることや心配事は起きてないか?」
「えっ?」

彼は私の顔をまじまじと見た後軽く吹き出した。
どうやら私の気持ちなどお見通しだったらしく凄く恥ずかしい。

「会社で誰か待っていたり、知らない相手から電話があったとか」

ずっと彼は仕事のトラブルを背負いながら私のことも心配してくれている。
下村さんから電話があったことはどう伝えれば良いだろう。
プロジェクトに関することも含んでいるので、とにかくそこは報告した方が良いのかも知れない。

「下村さんから電話がありました、達貴さんが帰れなかった日の夜に」
「よりによっていない日にか。
一人で対応させてすまなかった。
それで彼はなんて言っていた?」
「フィグスではかなりの騒ぎになっていること、一方的に契約を破棄されたことへの不満、むしろそちらの会社が漏洩させたのでは無いかと。
あとは、達貴さんと話したいのに話させてもらえないとも言っていました」
「会社同士の話になったからフィグスの社長とは話したよ。
お互いが身内を疑い、調べて報告するということは話し合い済だ。
で、彼はそれだけを話してきたのか?
むしろ君と俺との結婚について聞きたがったんじゃ無いのか?」

確信しているような言い方に驚いた。

「もしかして下村さんは私達の結婚についても問い合わせしてきたんですか?」
「いいや、それはない。
だが君に好意を持っている。
そういう情報を得るのは早いだろうとは思っていた。
それで彼は我々の結婚についてなんと?」

達貴さんのことを侮辱していたなんて言うわけにはいかない。

「達貴さんは立派だから私とは不釣り合いだと」
「大方、君は悪い男に騙されているとでも言ったんじゃないか?
ついでに俺の悪口でも色々と言ったかな」

軽くそんなことを言いながら、達貴さんはワインを飲んでチーズをつまんだ。
どうやら達貴さんの方が下村さんを理解していたらしい。

「達貴さんが来られなかった飲み会で、フィグスの山本さんが言っていたんです。
下村さんは今まで結婚相手を探していたそうなんですが上手くいかなかったらしくて、運命の出会いを待っていると話していたそうで。
そこに私と再会して、運命の相手と再会した、という考えに至っていると。
だから山本さんはプロジェクトを成功させるための監視役になってしまったというようなことを言われました」

私にとって下村さんは運命の相手と思ったことは無い。
でもその相手と再会を望む気持ちも、その人に近づきたい気持ちも理解出来るから線をきちんと引けなかった。
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