初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「そんな彼が結婚詐欺で捕まったというニュースを見てしまって」
「・・・・・・それは本当にその相手なのか?」
「おそらく。
色々ネットで調べたんですけど、名前も学校も同じで。
年齢差もあってるはずだし彼だと思います。
そのニュースを見た日は仕事になりませんでした」
「それは、大変だったな」
達貴さんのどう言えばいいのかわからないという口調に思わず笑う。
「だからでしょうか、下村さんが運命の出会い、相手に固執する気持ちはわかるんです。
私だって会えたら必死に思い出して欲しいと、いや、覚えてなかったら嫌だから遠目から眺めるかな。
むしろそれを隠して普通に話せるチャンスを狙ったりして。
もう、無理ですけど」
乾いた笑いが出て、一体自分が何を話していたかわからなくなった。
下村さんのことを話していたはずが、つい初恋の彼について思いを語ってしまった気がする。
「未だに彼が好きなのか?」
達貴さんの声はただ疑問に思っているようだった。
「好きです。お兄ちゃんは初恋の人ですから」
「そんな言葉を君から聞くと妬いてしまうな。
俺はどうしたって彼に敵うはずが無い」
「お兄ちゃんは特別ですが、達貴さんは旦那様なので」
「どういう意味に取ればいい?」
「うーん、どっちも特別で大切というか」
これは妻としてよくない発言かと彼を見れば、慈しみとも思えるほどに優しいまなざしで私を見ていた。
「そうか。
初恋の相手より上になるように精進しよう。
妻はまだまだ俺に対して遠慮が言葉に出るようだから」
「言葉遣いを完全に変えるのはまだ無理です!」
「わかった。
それも理世の可愛さだと思っているから、砕ける割合が増えるのを楽しみにしよう。
君が変わっていくのを側で見ていられるのが、夫の特権だからな」
「もう!」
彼が楽しそうに笑う。
私も拗ねたような顔をして、すぐに笑う。
会社のトラブルは大きくて、私のつきまといだってどうなっているのかわからない。
なのに達貴さんが隣にいる、それだけで私は幸せだ。
初恋のお兄ちゃんがあんなことになっても、心の中ではあの優しいお兄ちゃんは変わらないように、達貴さんがどんな道を選んでも私はそれに賛同し支えたい。
こんなに守ってくれる彼をいつか私が守れるようになれるだろうか。
彼の横顔を見ながら、そんなことを思っていた。