初恋の糸は誰に繋がっていますか?

第八章 罠にかかった哀れな者達


それから三週間弱、プロジェクトのメンバーは怒濤の日々だった。
今まで数ヶ月かけてきたことを一気に詰め込んだのだ。
本来の業務よりも比重を置かざるを得なくなる訳で、みな残業が続き土日もどちらかは出勤していた。
常務はそうしないように調整しようとしてくれたが、ここまでくればやってやろうじゃないかというメンバーの意気込みは熱く、時間を作っては集まった。

今回のデザイン会社は常務が個人的に繋がりのあるデザイナーさんだったが、全てオンライン会議だけで済ませたのに文句のつけようのない品を提示してきて、みんなでむしろ今回のデザインの方が良いのでは?などと軽口まで出るようになった。
完全にハイになっていた我々は異様な集中力と引き換えに、各セクションに引き渡すと魂が抜けたようになった。

「終わった、本当に終わった」
「元々のスケジュールに余裕を持たせておいたのが功を奏したよね」
「その上で常務が全てのスケジュールを最大限延ばせるように根回ししてくれたおかげだな」
「常務の知り合いの会社とやったことは絶対やり玉にあがるよね」
「それを言われないように結果出せば良いだけだろうが」
「簡単に言わないでよ」

みんなが疲れたように笑う。

「情報漏洩の件、どうなっているんでしょうね」
「金沢さんは常務から聞いてないの?」
「そういう話題は一切しないというか、お互いまともに話す時間も取れなくて」

あぁ、と皆が言いながら同情の視線を向けてくる。
実際は家庭の時間をおろそかにはしないという達貴さんの強い信念で、日曜日には一緒に住むための品物を揃えに出かけたりしていたことはここで言わない方が絶対にいい。
それに情報漏洩の件が話題に上がってないのは本当だった。
何かあれば教えてくれるはずだし、彼が調べていないはずが無い。
彼が教えてくれるまで待つのが良いだろう。

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