初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「理世」
その声に身体がビクリとする。
声の方に顔を動かせば、そこに立っていたのは下村さんだった。
久しぶりに見る彼は随分と頬がこけて無精ひげもあるように見える。
余裕の無いギラギラとした目を向けられて、思わず数歩後ずさった。
「どうして逃げるんだ。
どうして連絡しても出てくれなかったんだ」
達貴さんに下村さんからの着信拒否やブロックはしないようにして、だけど一切出ないようにと釘を刺されそのようにしていた。
沢山のメッセージ、着信、怖いと思うと同時に、私が寄り添わなかったことは良くなかったのかも知れないと罪悪感を抱いていた。
彼が一歩足を出し、私はまた一歩下がる。
「あんな男より俺にすべきだ。
今ならまだ怒らないから」
「嫌です。もう会いに来ないで下さい」
彼の顔がみるみる今にも怒り狂いそうに変わる。
「お前は俺の運命の相手なんだよ!
なんでわかってくれないんだ!!」
大きな声と手が伸びてくるのに、私は怖さのあまり動けなかった。
思わず目をぎゅっと瞑ったが、私の身体には誰の手も触れては来ない。
「痛い痛い痛い!!」
悲鳴のような声に驚き目を開けると地面に倒されている下村さんと、その腕を締め上げている達貴さんがいた。
「理世、大丈夫か?!」
呆然としている目の前で、会社から駆けつけてきた警備員の男性達が達貴さんから引き受けて下村さんの両腕を掴んで羽交い締めにしている。
目の前が見えなくなって顔を上げるといつの間にか達貴さんがいて、私の頬を手でそっと包み込んだ。
「怖い思いをさせて済まなかった」
何故いるの、どうしてこんなことになったの。
沢山疑問はわいてくるのに、彼の顔を見たらその胸に飛び込んでいた。
泣くことを我慢したいはずが、安堵から涙が出てきて必死に堪える。
達貴さんは私の頭と背中を撫でながら、もう大丈夫だと優しい声で繰り返してくれた。
理世!理世!という大きな叫び声が離れたところから聞こえ身を強ばらせる。
達貴さんは私を守るように包み込んで、私から彼は見えない。
「警備員達がビルに連れて行った。
警察に通報してこの後は色々と大変になるだろうがとりあえず家に帰ろう」
彼が私の手を握る。
優しい声に頷いた。