初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「さきほどかかってきた電話は相談していた警察庁の友人からだった。
下村は警備員が呼んだ警察官達に引き渡され警察署で事情を聞かれている。
そこで言ったらしい。
『理世を怖がらせれば頼るのは俺だったのに』と」
混乱していたのに、段々何かが見えてきた。
「そういえば、家までつけられたあの日、下村さんからショートメッセージが来たんです、それも写真付きで。
今も残業しているのだという内容で、写真は会社のデスクやパソコンが写っていました」
「なるほど、アリバイ作りか」
「アリバイって、じゃぁ」
「証拠はまだ無いが、黒幕は下村ではないかと俺は思っている」
ころん、とずっと抱えていたクッションが床に落ちた。
私はどこから彼に狙われていたのか。
「これは俺の推測なんだが」
達貴さんが私を見てやはり止めようと言ったのを、話して下さいとお願いした。
「下村が理世を見つけたのは偶然だろう。
それがたまたま乗った電車か、駅かはわからない。
しばらくは君がどうしているのか確認したかったのだろう、彼氏がいるのか、結婚しているのか、勤め先はどこか。
下村がうちのプロジェクトに選ばれたのは偶然だが、応募したのが偶然かは怪しい。
下村は君と運命的な再会だと君に思って欲しかったんだろう。
その上で君が助けを呼びたくなる状況を作った」
「家までつけられた前まで、下村さんに同居の話をもちかけられていました。
傷つけないように遠回しに断っていたのですが」
「君が応じないことに業を煮やしたのか、それとも俺が助けたことを知ったのかはわからない。
だが君を追い詰めれば自分に助けを求めて同居に持ち込めると思ったのだろう。
それをするために、金で雇ったあの男を使った。
君が言ったとおり、男も君には腹を立てていただろうからただ家までつけていって怯えさせるだけでいいという依頼は、そこまで怖いことでは無かっただろう。
しかし頼られたのは下村では無かった。
せめて情報漏洩で俺が追い詰められれば別れるとでも思ったのかも知れない」
「だけど、思惑通りには行かなかった」
「下村からすれば誤算ばかりで何の得にもなっていない。
我慢が出来なくなって君の所へ現れた。
今日の昼頃フィグスの社長から連絡があったんだ。
『下村が消えた、ここのところ様子がおかしかった』と。
だから仕事を切り上げて会社に来た。
会おうとするなら会社の外だと踏んでいたが、ギリギリだった」
充分間に合ったのに、彼は後悔に苛まれているようだった。