初恋の糸は誰に繋がっていますか?

「とりあえずは弁護士と警察に任せるしかないな。
会社の方は既に被害届を出していて捜査に入っている。
理由が何であれやったことは大きい。
下村が事件に関わっていなくても、理世を会社の前で待ち伏せして無理強いしようとしていた状況は目撃者も多い。
今後もそういう行動を繰り返す可能性があるとわかれば、警察から命令が出て少なくとも君に近づかないようには出来るだろう。
大抵はそれでおさまるらしいし、もちろん俺が二度と君に怖い思いはさせない」
「大丈夫です、弁護士さんや警察の人に任せてますし。
達貴さんが色々と動いてここまで来られたことはもちろん感謝していますが、今後出来れば私のことで負担を増やすことだけはなりたくないんです」
「俺は負担だなんて思っていない」
「達貴さんがそう思っていても、やるべきことが増えているのは事実でしょう?
そうじゃなくてそのリソースを休養に使って欲しいなと思っているんです」
「理世、それは違う」

彼は優しく私の言葉を否定した。

「君は俺が君にしようとしていることを負担だと、迷惑だと思っている。
だが俺たちは夫婦だ。
妻を心配して何が悪いんだ?」
「そうじゃなくて、余計な心配になると」
「そうだな、例えば外で雨が降っているのに気がついたけど、君は一人で傘を持たずに買い物に行ってしまった。
雨で濡れるかもしれない、車で迎えに行こうかと気にするようなレベルの話だ。
君は気にならないかも知れないが」
「私だってそんな状態なら心配しますよ。
傘を持って行こうかとか風邪引かないかとか」
「な、そうだろう?」
「レベルが違うと思う」
「違わない。
大切な相手を思うことに、大小は無い。
だから俺にとっては負担でも無く当然のことなんだ。
もちろん君を心配だからと縛るつもりなんて無い。
夫なら君を守るのは当然だと思うだけだよ」
「私だって」
「私だって?」

私だって達貴さんを守りたい。
その力は彼の持つものに比べれば微々たるものではあるけれど。

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