初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「私だって達貴さんを守りたいです。
一社員だし子供だし力なんてないんですけど、でも頑張る貴方の少しでも力になりたい。
その為にも頑張るから」
何をどう頑張れば良いのかはすぐに思いつかない。
彼ほど出来る人間の支えになれる人は、それだけの実力がある人だ。
家事能力も達貴さんに遠く及ばないけれど、努力して少しでも迷惑をかけないようにしたい。
彼が、肩の力を抜ける場所が私の側であるために。
「頑張りたいのなら君の意思を尊重するけれど、俺は別に努力して欲しくてそういう事を言ったわけじゃ無いよ。
家に帰れば君がいる、君が妻であることは俺にとって最高のパワーになる」
「そんな訳がないと思うんですけど」
「結婚前は家は帰って眠る場所くらいに思っていたのに、今では早く家に帰りたいし二人でゆっくり過ごせる時間は楽しみだ。
俺の作った料理を美味しそうに頬張る顔も見ていて楽しい」
「それ、奥さんが言う言葉ですよね、すみません」
「一人で作るのは味気ないと言っただろう?
でも二人でなら色々な外食も楽しいものだな。
仕事で行った店が良かったりすると理世を連れてきたら喜ぶだろうかと思うようになった」
彼の微笑みはずるい。
最初は怖い人だと思っていて、それが段々家では笑う顔を見せてくれて。
彼の特別な笑顔は自分だけのものにしたいなんて、酷いことを思ったりもするのに。
「なんだか私はいるだけで良いみたいな甘やかされ方をしているように思えます」
「最初に言っただろう?
努力をするのは俺の方なんだ。
君は訳もわからず入籍してしまったからな。
これから色々な思い出を作っていこう」
何を彼が努力する必要などあるのだろう。
それでもそう思うからこそ、彼はこの若さで上り詰めているのかも知れない。
「まずは商品発表後の温泉だな」
「はい、楽しみです。どちらも」
「あぁ、そういえば理世に対して希望はあるんだった」
「何でしょうか」
思わず背筋を伸ばせば、彼は口の端をあげた。
「しゃべり方、もっと砕けてほしいものだな」
「うう、頑張ります」
「もう一声」
「頑張る」
彼の意外な突っ込みに私が赤面しながら答えれば、彼は楽しそうに笑った。
外は気がつけば夜景が広がっている。
初めて北京ダックの丸焼きを見せられ、その後小さな春巻きのような形になって出てきたことに驚いた私を、達貴さんは目を細めながら説明してくれた。