初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「こちらの外は他からは見えないようになっております。
どうぞご夕食の時間までゆっくりお過ごし下さい。
何か必要なものなどございましたらご連絡ください。
まずはウェルカムドリンクをお持ち致しますが、どれになさいますか?」
渡された紙にはアルコールやソフトドリンクがずらりと並んでいる。
ノンアルコールカクテルもあり、数からして私の知っているウェルカムドリンクではない。
「私は生ビールを。理世は?」
「自家製ジンジャーエールをお願いします」
「生ビールに自家製ジンジャーエールですね。
ジンジャーエールは旅館敷地で作りましたショウガを使っておりまして、女性のお客様にとても人気なドリンクなんですよ。
では少々お待ちください」
最後まで笑顔の男性スタッフさんが部屋を出て行き、玄関の戸を閉める音がして肩の力が抜けた。
「緊張した?」
「緊張するよ。
雑誌か旅番組で見たこと無いような豪華なお宿なんだもの」
「緊張していたのならあまり部屋を見ていなかったんだろう?
気にしているようだしもう一度見てきたらどうだ?」
「でも、ドリンクが来るし」
「別に来たって良いじゃ無いか。
俺としては君が喜んでいる姿が見られるほうが嬉しいのだが」
意地悪な瞳を向けられているけれど、彼が嬉しいという気持ちは本当だとわかる。
ご厚意に甘えてと拗ねることもせずに部屋を探検することにした。
先ほどはざっとだったが、ゆっくり見てみれば一部屋一部屋が広い。
食事をする部屋とリビングは障子で仕切れるようになっているが、開け放てば二十畳ほどありそうだ。
引き戸では無いドアを開け、寝室を覗いて気がつく。
和洋室風というのか、下から一段高くなった畳の上に布団が二つ既に並べてあった。
これが洋室ならダブルベッドだったのかもしれないわけで。
別々の布団に少し胸をなで下ろすと次はお風呂を見て回る。
内風呂も外風呂も立派で、考えてみればこの旅館は大浴場は無く風呂は部屋にだけ。
ということは。
一緒に入ろうと言われたらどうしよう。
でもここまで一緒に住んでいても、何も達貴さんが言わなかったのは私を怯えさせないため。
けど妻としてそれはやはりどうなのか。
いつまでも甘えるのは良くない事なのに。
色々考えてしまう頭を切り替えるためドアを閉めるとリビングに戻った。