初恋の糸は誰に繋がっていますか?
食事は懐石料理だったが、海山の食材は新鮮でどれも美味しい。
盛り付けられたお皿も素晴らしく、少量ながら食事が出てくるものの最後の炊き込みご飯は流石に茶碗半分しか食べられなかった。
美味しい美味しいという私に、達貴さんは穏やかな顔であぁ美味しいなと返してくれる。
食事も美味しいけれど、好きな人と食べればより美味しい、それを彼と過ごして実感するようになった。
デザートは別腹で堪能すると、最後にお夜食と言われ、おにぎりとフルーツゼリーまで出てきた。
本来格式高い旅館ではもっとおしとやかにすべきなのに、つい反応してしまう。
達貴さんはむしろそういう素直な喜びが、宿にとって嬉しいものだよとフォローしてくれた。
「美味しかった!」
「理世が俺と味の好みが大きいのは嬉しいね」
「そういうものですか?」
「これから長い時間を一緒に過ごすのに、好みの味が違うというのは結構困ることらしい。
それで結婚生活が上手くいかなかった話も聞くしな」
「確かに美味しいものを食べることが好きなのに、相手は栄養だけ取れれば良いという人なら合わないでしょうね。
美味しいものを好きな人と食べるってとても幸せなのだと、達貴さんと過ごしていて実感します」
「好きなんて言葉、初めて聞いたかもしれないな」
達貴さんの言葉にハッとした。
私は今まで彼に好きだとか愛しているとか言ったことはあっただろうか。
「言ったこと、無かったでしたっけ?」
「俺の記憶が正しければ初めてだ」
おそるおそる聞くと、彼はあまり気にしてないように答えた。
「そういえば俺も結婚を申し込んだがそういう言葉はあまり言ってない気がする」
「ではお互い様ということで」
「じゃぁ後でのお楽しみということにしよう」
彼は椅子から立ち上がってダイニングを出て行った。
後でのお楽しみって何?!
やはりそういう行為の時に言おうということ?!
私は勝手に色々と想像してしまい、テーブルに突っ伏した。