初恋の糸は誰に繋がっていますか?

「やっぱり凄いです達貴さんは」
「君だって凄いだろう?
こんな男の妻になったのだから」
「なんですかそれ」

は、と言葉を続けながら気がついた。
彼の目標はもしかして。

「もしかして達貴さん、TAKAGIの社長になるんですか?」
「父は早めに退いて、母と旅行に出かけたいと言っているんでね。
その時期は割と早いかも知れないな」

達貴さんの目を見たまま固まる。
達貴さんが社長に。
ということは、私は。

「君は将来社長夫人として色々と巻き込んでしまうかと思うが、なるべく負担をかけないようにする。
だが見せびらかしたい欲求と隠しておきたい欲求があって困っている」
「き、聞いてません!!!」

聞いてない、何もかも!
突然知らされた驚愕の情報に混乱する。
それも私は当事者になる話なわけで。
私がうちの会社の社長夫人になるかもしれないなんて、同僚や奈津実達に呆然とされるのが目に見えるようだ。

「大丈夫だ、怖くない怖くない」
「怖いに決まってるでしょう?!」
「色々乗り越えてきている君なら大丈夫だ」
「会社では騎士なんて言われてましたけど、王子様だとは知りませんでした!」
「何の話だ?」

パニクる私に達貴さんは不思議そうな顔になる。
そこからは混乱して逃げ出したい私を達貴さんがなだめていた。

「もう十一時半か。
もう一度風呂に入ろうと思うがどうする?」
「今度は達貴さんが先で」
「わかった。またゆっくり例の件について話そう」
「もうどれかわからない」

両手で顔を覆い泣き真似をすると、困ったと達貴さんが私の頭を撫でた。

「そうだ、一緒にはいるか?」

ばっと顔を上げると、口の端をあげた達貴さんに揶揄われたとわかった。

「意地悪」
「理世は割と意地悪な俺も気に入っている気がするんだが」
「やっぱり意地悪!」

はは、と笑いながらお風呂の方へ行ってしまった。
そうです、意地悪な貴方もかなり好きなんです。
どうやらこれも彼にはお見通しなんだ。
君がわかりやすいだけだと笑われそうだけれど。
私はため息をつきながら、自分のお風呂セットを取りに荷物を置いてある寝室に行った。
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