初恋の糸は誰に繋がっていますか?



「理世、良いよ」

しばらくして達貴さんがリビングに戻ってきた。
濡れた髪の毛をタオルで無造作に拭きながら出てきた彼を見て一瞬言葉を失った。
初めて見る浴衣姿だが、一番大きい浴衣のはずなのに丈がくるぶしまでで足りていない。
胸元は湯上がりで暑いのか大きく空いていて、男らしい鎖骨がしっかり見える。
男らしいのに色気が増すというのはどういう事なのだろうか。
なるほど美肌の湯の効能、凄い、と旦那様を見て実感した。
私は格好いい旦那様の色気に惑わされないように、自分に活を入れて普通に振る舞う。

「そんな急がないで良いよ。
髪の毛くらい乾かしてきて」
「面倒で」
「しょうがないな、私が乾かしましょう」

以前達貴さんが髪の毛を乾かさずに出てきたことがあって私が髪の毛を乾かすように言うと、元々ドライヤーで乾かす習慣が無かったらしい。
見かねた私が彼の髪を乾かしそれ以降は達貴さんが自分で乾かしているのだが、時折こうやって私に乾かすことをねだってくる。
これが可愛くてたまらないのだけれど、それを悟られないようにしているがきっとバレているのだろう。

彼は畳の上にあぐらを掻いて座り、私はその後ろにソファーで座りながら髪を乾かす。
家のドライヤーとは違うけれど、かなりお高い海外メーカーのも使い勝手が良い。
私に背中を向けて座る彼の肩幅広く、袖をまくっているので鍛えている上腕が上から見えた。

「あれ?」

そういえばここまで腕をまくっている彼を見るのは初めてで、彼の左腕の上の方に長い傷跡があることに気がついた。
肩の上の方から斜めについている傷跡。
十五㎝は軽くありそうな真っ直ぐな傷跡は、今もこれだけの跡が残っていることを考えるとかなりの怪我だったのではと思えた。

「こんなとこに傷跡があったんだね、痛そう」

彼は振り向き、すぐに袖を戻した。

「あぁ、子供の頃にな。
すまない、嫌なものを見せた」
「嫌だなんて思わないよ。
かなり傷跡が長いからかなり血が出たんじゃ無い?相当痛かったでしょ。
他は怪我していたりしないの?」
「他には無いよ。
そもそも子供の頃の出来事であまり覚えていないんだ。
もう髪も乾いたな、ありがとう。
遅くなるから理世が入っておいで。
それとも夜一人が怖いなら俺が湯船の横で付き添っていようか?」
「一人では入れます!」

ドライヤーを持って、私は未だ後ろで笑ってる彼を無視してお風呂に入ることにした。
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