初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「来週から十日間の海外出張ですか」
「あぁ、アメリカでの販路拡大で俺が行くことになった。
もちろん数名関係部署の者達も行くんだが」
「凄いことじゃないですか!
企画部立ち上げと関係しているんですか?」
「新商品を向こうでも売ってこい、企画部を作りたいのだろう?という事らしい。
営業部の仕事だと思うんだが、社長の命だ、仕方が無い」
「もしかして、以前から社長の無茶振りみたいなことはあったんですか?」
「あぁ。
あっちの関連企業の業績が芳しくないからてこ入れしてこい、あちらで使えるヤツを探すために一社員として紛れてこい、本社の手が足りないからこっちに来い。
母親がハラハラしていたが、どれも悔しいが勉強になることなんだ。
それがわかっていたから、言われた以上は結果を出してきた」
「完璧な息子であり、部下と言うことですか」
「言っておくが失敗も多いぞ?
相手先を酷く怒らせて、社長室で土下座したこともある」
土下座。一体何があったのか怖くて聞けない。
「しばらく一人にしてしまうが大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、ちゃんとご飯は食べます、出来るだけコンビニ飯以外で」
「その心配もあるが、何か気になることや不安なことがあればすぐ警察か依頼した弁護士に連絡するんだぞ」
「もうずっと何も起きてないですし、大丈夫ですよ。
もちろん何か不審に感じたことがあれば連絡します」
あの一件では元社員と下村さんは起訴され裁判になったものの、執行猶予がついた。
既に下村さんはフィグスを解雇されていたため、誰もその後を知らない。
もしかして恨んでまた来るのではとしばらくは緊張したが、もうこれだけ経てば大丈夫だろうと私は思うことにした。
彼がどこかで人生をやり直しながら本当の運命の人に出会ったなら、今度こそ正々堂々とその人の気持ちを第一に思ってくれたらいいなと思う。