初恋の糸は誰に繋がっていますか?

「なんだろう、これ」

『昆虫図鑑』と書かれた題名の本はかなり古く、背表紙はボロボロになっていてそれを補強するためにつけたセロハンテープは色あせている。

「達貴さんが子供の頃読んでいた本かな」

箱に入れられ置いてあったのだから恐らく思い出の本なのだろう。
どこか破れていないかを確認し、仕舞う前に彼が幼い頃読んでいたであろう本を見てみたくなった。

一枚ずつ厚い紙をめくればところどころ彼が書いたのか、どこで見つけたなどと書き加えてあって微笑ましい。
最後まで読んで閉じる。
そこに書いてあった文字が目に飛び込んできた。

『佐藤 達貴』

「さとう、たつき?」

油性ペンか何かで書かれた文字はおそらく大人がかいたものだ。
私はハッとして自分の部屋に戻り、しまい込んでいた手紙を持ってきた。
手紙を開き、その中の文字と図鑑に書かれた文字を照らし合わせる。
おそらく書いた年齢は違うのだろうが、書き方の癖が同じひらがながいくつか見つかった。

座り込んだまま、呟く。

「でも、達貴さんのお母さんの旧姓が森山で、だから森山」

そういえば彼の両親は高校生の時に再婚している。
お母さんの名前が旧姓というのは、前の夫と結婚しているときはその苗字を名乗っていたと言うことだ。

「それが、佐藤だったの」

繋がった。

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