初恋の糸は誰に繋がっていますか?

彼が遠くに行くと書いてあった理由はおそらく両親の離婚によるものだろう。
その時にお母さんは佐藤では無く元々の苗字である森山に戻した。
それから引っ越した先でお母さんは再婚し、高木となったのか。

温泉旅行で見た彼の姿が脳内に蘇る。
左腕にあった痛々しいほどに長い傷跡。

「お兄ちゃんは、左腕から、血を流してた」

おぼろげな記憶が蘇る。
彼が血を流して腕は自分から見て右に見えた。
それは二人が向き合っていたからで、彼が怪我をしたのは左だったと気がついた。

急に、勢いよく言葉に出来ないような感情が押し寄せてくる。

「達貴さんが後悔してたことは、私のこと、だったんだ」

いつから彼が私をあの時の子供だと気づいていたのかはわからない。
だけれど昔のあの出来事を今も後悔しているのなら、私を結婚してまで助けた理由に納得がいく。
それだけ彼はずっと罪悪感を背負って、今度こそ私を助けたいと決意したのだろう。
そう思うと、彼が時折言っていた言葉が全て腹落ちした。

「馬鹿」

馬鹿だ、貴方も私も。

あれは私が勝手に待っていたのが原因で危険な目に遭っただけ。
それなのに彼は今もあの事件に捕らわれている。
きっと私を守って幸せにすることで、あの事件で起きたことを償おうとでも思っているのかも知れない。
それだけ彼は、真面目で優しい人だから。

私は手紙と図鑑を目の前にして床に座り込んだままだった。

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