初恋の糸は誰に繋がっていますか?


地震からおそらく二時間後くらいに達貴さんから電話がかかってきた。
地震は大丈夫だったかと心配する彼に、大丈夫だよ、高層階って揺れるんだねと笑って答えた。
彼はとても心配しているようで、一人で高層階にいるのが怖ければどこかホテルに行ってはどうかと提案してきたので、もったいないよと断った。


月曜日、私の手には一つの封筒。
上司にそれを出し、上司は驚いた顔で理由を聞いてきた。
一身上の理由です、勝手をして申し訳ありません、それしか私は繰り返さなかった。
急に辞めると言っても迷惑なのはわかっている、
残りの有休消化中に電話で対応させて下さいとわがままを言った。
上司はただ困惑していたしこんなやり方は社会人として私も問題だと思うけれど、今は逃げることしか頭にない。
仕事も企画部に移ると言うことでほぼ他の人に移行させていたし、他のことについてもマニュアルをまとめていたのがこんなことに役立つなんて複雑だ。

「理世!辞めるってどういうこと?!」

まだ休み時間でも無いのに奈津実がロッカー室に走ってきた。
ロッカーの中にある荷物を袋に入れている私に怒ったような声を上げ、私はどう言えば良いかわからない。

「ごめんね」
「だから理由聞いてんの!
常務と喧嘩でもしたの?!」

私は首を横に振る。

「常務は何一つ悪くない。
悪かったのは私」
「意味がわからないよ」
「やっと彼のために私が出来ることを見つけたんだ。
だから、これで良いの。
今までありがとう」
「別にどこにもいかないよね?
連絡も取れるよね?」

私の手を掴んだ奈津実が不安そうに聞いてきて私は笑顔を向ける。

「本当にありがとう」

返事はそれだけしか出来なかった。
呆然と私を見ている奈津実をロッカー室に残し、私は会社を出た。

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