初恋の糸は誰に繋がっていますか?
そのままウィークリーマンションを借りた。
以前住んでた地区とは全く関係ないエリア。
その方が彼に会う危険性は無くなる。
一度彼と住んでいる家に戻り、自分の部屋で最低限必要な荷物を鞄に入れる。
以前住んでいた時の家具は引っ越したときに捨てたためほとんど無く、達貴さんが買ってくれたものが部屋には増えていた。
服に、ジュエリーに、鞄まで。
同居が始まったときに、必要だからと彼が色々と揃えてくれたのだがお金を払うとという私に、彼はいつも断った。
俺が無理に言ったのだからそれくらいさせて欲しいと。
仕方なくその場ではお言葉に甘え、その後悩んでプレゼントを渡した。
デパートに行き、沢山並ぶカフスを店員さんに頼んで何度も袖口の見本につけて選んだ物。
こんな高いプレゼントは初めてだったが、彼からすれば間違い無く安い部類。
それでもとても喜んでくれて、翌日にはつけていってくれた。
それを会社でみかけて、秘密を共有しているような気分でくすぐったかった。
大きな鞄を二つ持ち、リビングに来ると部屋を名残惜しい気持ちで見渡す。
ソファーに座っているのは達貴さんが買ってくれたくまのぬいぐるみ。
出かけた先で一目惚れしたのをしっかり彼は気づいていて、私が気づかぬ間に買ってくれていた。
「君は一緒に来てくれる?」
どうしてもこの子は一緒に来て欲しかった。
ずっと私と達貴さんが座っていたソファーで話を聞いていたこの子は、達貴さんに新しい女性が出来たときに処分で困ってしまうだろう。
出来るだけ彼から買ってもらった物は置いてきたけれど、この子は私が引き取りたい。
くまを脇に抱え両手に鞄を持つと、玄関で一度振り返り頭を深く下げてから家を出た。
リビングにあるテーブルの上に封筒を一つ置いて。