初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「見つけた」
聞き慣れた低い声。
息を切らしたような声がして顔を上げ、声がした方を向く。
そこにはこちらをのぞき込んでいる達貴さんがいた。
まだ、帰国には早いのに。
驚き、どうしていいのかわからない。
「理世」
彼の声に一歩奥に下がった。
この穴は向こうに通り抜けできる。
そちらに視線を向けると、再度名前を呼ばれた。
「理世、話をしよう」
私は唇を噛みしめ顔を横に振る。
「君がここにいて俺はここに来た。
気づいたんだろう、俺があの時の子供だと」
まだ涙が流れる顔を、彼から背けた。
「この中には俺じゃ入れない。
出てきてくれないか、君と話がしたいんだ」
手が差し伸べられる。
幼い頃、ここで泣いていた私に手を差し伸べてくれた彼と姿が重なる。
手を少しだけ出そうとして引っ込める。
だけど彼はずっと手を差し出していた。
彼の声は私を呼び戻す。
勇気を出して決断したのに、彼の声を聞いたら甘えてしまう。
「ごめんなさい」
「何を謝ることがあるんだ」
「ごめんなさい、私のせいで」
「違う、何も理世は悪くない。
だから、出てきて欲しい。
話がしたいんだ」
こんな身勝手な私を彼は根気強く声をかけてくれる。
無理矢理ここから出そうと私を引っ張ることも無い。
だけれど諦めて欲しかった。
諦めて欲しくないという気持ちに自分で気づいているくせに、だけど今ならまだ私は彼との再会を思い出に生きていけるはずだ。
「理世ちゃん」
ハッとして彼を見る。
「出ておいでよ」
自信なさそうに、でも必死に語りかける声。
一気にあの時の出来事が蘇る。
理世ちゃんと彼から呼ばれたのだ、ここで泣いていたときに。
そういえばあの時の彼は、初めて会った私の名前を何故知っていたのだろう。
嫌がって出てこない私を、彼は我慢強く声をかけて私が出てくるのを待っていた。
今と、あの頃が重なる。
伸ばされた手の大きさはきっと今の方が遙かに大きいのに、あの頃でも大きく感じたのを覚えている。
私は手を伸ばし、彼の手を取った。
あの頃と同じように。