初恋の糸は誰に繋がっていますか?

「あの頃のことはどれだけ覚えている?
話したくなければ話さなくて良い」

躊躇したのだろう、間を置いて彼が聞いてきた。

「以前話したことがほとんどです。
傷を左右反対におぼろげながらですが覚えていて。
それはお互いに向き合っていたから勘違いしていることも気づきました。
それに、母が失礼なことをしたんじゃないでしょうか。
本当なら両親が私を含めてお礼に行くべきなのに、きっと何もしてないはずで。
むしろその頃のお礼を、私からさせて欲しいです」

私を守って怪我をした達貴さん。
だけど両親は私を彼に会わせたがらなかったし、特に母は酷かった。
本来は医療費や彼に何かお礼をすべきであったのにしてないはずだろう。

「あの頃君は幼くて、両親からもきちんと話が無かったのも当然だ」
「どういうことですか?」
「ご両親のことについては誤解を解いておきたい。
あの頃の話をするけれど大丈夫だろうか」
「はい、お願いします」

誤解とは何か。
彼からあの頃の話を聞きたかった。

「事件については君が覚えていることが大体合っている。
二人とも一旦病院に運ばれて、君を迎えに来たのは君のお母さんだった。
そこにうちの母も来てね、だからお互いの母親は面識があるんだよ」

ということは、達貴さんのお母さんは私に会っているということだろうか。
結婚相手が自分の息子が怪我した原因だと知っていて、結婚を賛成したのかも気になった。

「当時、俺の父親は働かないで家にいた。
仕事中に足を怪我してね、たいした怪我でも無かったのに会社から金がそれなりに出た。
既に完治しているのに痛いのだとわめいて会社からまた金を取った。
会社も流石にたまらなかったのだろう、父親を解雇した。
それからは自分は可哀想なけが人だと母や俺に酷くあたるようになった。
だから学校終えてすぐ家に帰らず、公園で時間を潰していたんだ」

初めて知る彼の幼いときの事情。
彼が静かで表情の無い少年だった理由がわかった気がした。

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